toorisugari3のブログ

ベターコールソウルの事について、ネタバレ込みでつらつらと

Better Call Saul S6Ep08 感想 (含: ネタバレ) (last updated 20220717)

本エントリは、ベターコールソウルS6Ep08や、Breaking Badへのネタバレ記述がふんだんに含まれる。未視聴の方は読まない事を強く推奨する。

 

 

振り返り

どこかの砂浜

波の音と砂浜でもう察してしまえる。Ep03と同じ、フラッシュフォワードでのちらつかせ。勿論靴やNAMAST3ジャガーでこちらの方が明示的ではある。
 本エピソードの脚本家であるゴードンスミスによれば、このシーンがシリーズ全体で一番最後に撮影されたシーンであるらしい*1

該当記事では今回のハワード陥れる件について、キムの中でどう認識されているかの記述もあり、なかなか興味深い。絶対的真実と言うわけでもないが、脚本家の言う事でもある。また、放送前の本人のインタビューでも、キムを演じるレイによる、キムへの想いが一部明かされているので興味があれば是非見てほしい*2

 

 

キムのアパート

ろうそくの炎から入るのが流石。ラロは腹案も無しにキムのアパートに押し入ってハワードを殺したわけではなかった。ガスの暗殺代理をさせる……?しかもキムに?まだここでは納得がかない。

 

ラロが話をするシーンでのジミーとキムの態度が印象的。Ep04でマイクが言ったように、キムの方が肝が据わっているかと思っていたら、ここでは逆にキムが強くおびえ、ずっと過呼吸みたいな感じになっている。一方、ジミーが腹を決めて落ち着いてラロと交渉している。

ジミーはキムに殺人をやらせようとしたのではなく、自己犠牲の上で逃がそうとしているように思える。

 

キムが出かけた後で、ラロは「自分を殺す手引きをしたナチョがお前を紹介したのだ」といい、ジミーはそれには関わっていないと激しく抗弁する。これがBrBaS2Ep08での
「No, it wasn't me. It was Ignacio. He's the one.」「Lalo didn't send you? No Lalo?」というセリフの理由、「ラロへの恐怖の大きさ」を回収する。

 

また、金魚の水槽のエアポンプが前のエピソード時よりも間隔が少し遅くなっている(3秒→4秒強)。エアポンプについてはまたいつになるか分からないが、別エントリで纏めたい。

 

 

ガス邸

ガス邸の前で車を止め、銃とカメラを手に玄関に近寄るキム。しかし、S6Ep04で示されたようにガス邸は監視下にあり、しかも中に居るのは影武者だ。ここまで思い出せたらラロの意図もほぼ判明する。陽動だ。

 

案の定、キムは後ろからきたマイクに拘束され、家の中に連れ込まれる。

BrBaS4Ep02 A3で、ガスを殺すために訪れたウォルターが、気配も無いのに「帰れ」と電話を受けるシーンを思い出させる。

 

キムは、ラロに銃なんて触った事もないと言ったが、扉が開くときには銃を構える。ジミーもキムも、お互いの為なら自分の命も殺人という罪も厭わない事が示される。キムもジミーの逃げろという意図には恐らく気づいていたはずだ。

お互いへの忠誠心の強さについては、ケトルマン夫妻を思い出させる。

また、この玄関越しに銃を構える構図はBreaking Badでジェシーがゲイル・ベティカーを射殺したシーンを思い起させる。もっともジェシーは遂行し、キムは未遂に終わるわけではあるが。これが本エピソードのタイトル、「Point and Shoot」と最も結びつく既発表エピソードではなかろうか。※前半のエピソードタイトルについての解説*3

 

見かけたネタだが、「Point and Shoot」は寧ろ先のBrBaS4Ep02で、ウォルターが「出来なかった事」の方が正解なのかも。

BrBaS4Ep02のタイトル「Thirty-Eight snub」snubは拳銃の事で、ウォルターがガス暗殺の為にこのエピソードTeaserで武器密売人から購入し、このシーンでも懐に忍ばせているものだ。

ウォルターがガスに「できなかった」「Point and Shoot」を、過去ガスは強敵ラロ相手に成し遂げていた。

 

キムの話の内容に違和感を覚えたガスは、キムと電話越しに話す。そこで「ラロが説得されて夫の変わりに自分を寄越した」と聞いて全てを察する。これは陽動で、スーパーラボの証拠をつかみに行ったのだと。そしてガスはそこへ向かう。

 

 

ベターコールソウル公式Twitterが、このシーンで「キムは撃てたと思う?」と題し、動画をツイートした。

もしマイクに阻止されなければ撃っていたか?という問いに対して、レイは「その問いに答えるつもりはないが、自分の中ではこうだという考えは持っている」とだけ答える。ここで答えさせてしまうと興醒めする人も多いだろうし、この答えが100点満点だと自分は思っている。そのうえで、キムなら撃っただろう、とも。

 

これを書いている時点で20件ほどの引用RTがあるが、その中で判断を書いている人は皆「撃っただろう」と答えていた。リプの方を数十件見ても、一様にYESだ。多分レイの答えもそうなんだと妄想している。

 

 

洗濯工場

スーパーラボ上の洗濯工場で、ラロはガスの護衛を皆殺しにする。護衛が防弾ベストを付けてないのは少し気になる……

 

 

キムのアパート

マイクの手下の一人が狙撃銃でキムの部屋を覗く。S5Ep09ではマイクがしていた事だ。この手下はS6Ep02のA4で、養鶏場のオフィスを襲撃者に備えて監視していた狙撃手でもある。


キムのアパートの階段を駆け上がるマイク達を追うカメラは極端なローアングルと激しい揺れで後を追う。このカメラの揺れはBetter Call Saulではあまり使用されないが、Breaking Badではおなじみだったもので、S5Ep08 Bagmanでも銃撃戦シーンの一部で使われた。このエピソードもヴィンスギリガン監督ゴードンスミス脚本の回である。


キムのアパートでは、ジミーから「ラロはキムが出発してすぐ出ていった」と聞いたマイクも全てを察する。

 

 

洗濯工場/スーパーラボ、ロスポヨスエルマノス

防弾ベストの上からガスの胸を撃つラロ。階段からガスを蹴落とすのといい、いたぶりかたがラロらしい。

そして最期の演説を求めるガスと、応じてビデオに収めるラロ。カメラはS6Ep05で描かれた、緩めた電源ケーブルコネクタと重機のキャタピラに隠した「チェーホフの銃」を映しながらガスの演説を追う。

そしてヘクターを喋れない状態にして生かしたのは自分だとも告白する。これはEp03のナチョの演説を強く想起させる。

 

そしてコネクタを蹴って明かりを落とし、隠した銃へ走る。銃撃戦で勝つのは勿論、100%proofのプロットアーマーで守られたガスだ。ゴボゴボと口から血を吐き、事切れるラロ。ガスも腹に手傷を負い流血している。

 

この究極の緊張シーンからの場面転換で、ポヨスエルマノスに出勤するライル君。お気楽な勤務先のCMソングを歌ってる。緊張の緩和。ドンキやソフマップのアレと同じ。

 

ガスの傷は浅く、貫通銃創で大事には至らなさそうなことも描写される。

ガスはマイクに文句を言われるが、ガスの反応は嘘くさい。ラロがスーパーラボに行った事は確信していたはずだ。マイクは「知っていればもっとうまく対処できたはずだ」というが、それに首肯するガスを見ても本心とは思えない。

Breaking Badでも、マイクはガスへの「絶対的な」忠誠があったようには見えない。

BrBaS3Ep12では、ソウルの部下であることは一種の隠れ蓑で、ガスの部下であることをウォルターに打ち明け、そのボスにも言わずに「同業者としての忠告(professional courtesy)」に出向いている。また、BrBaS4Ep01でのヴィクター処刑時(場所は同じスーパーラボだ!)、マイクはガスにとっさに銃を向けている。

 

 

キムのアパート

ジミーの水槽横にマッカランのラベルが映り、18年物である事が明らかに!「今」日本で買うと7万円前後だ。2004年当時なら数割は安かったのではなかろうか。90年代の値段を思うと日本では(日本に限らないか)わりと値上げ幅の大きいブランドだとおもう。

殺人現場で直前に飲まれた酒が映るのはS6Ep01でもあった。ラロ邸で映ったルイ13世デカンタだ。

 

ジミーが待つキムのアパートに、キムやマイクが帰ってくる。
マイクはラロが帰ってくることを心配するジミーに「He is not coming back」という。これは2度目のラロ死亡通知だが、1度目が事実でなかった事もあり、ジミーが疑う余地となり、BrBaS2Ep08での「Lalo didn't send You?」となる。

マイクが2人に「座れ」と言うのは冒頭でラロが言っていたのと同じだ。

何もなかったように、ハワードの死とは一切関係がないように振る舞えと言われ、同意するジミーとキム。ハワードは、直接2人が殺したわけではないが、死ぬ原因の1つを作ったのは間違いなく彼らだ。キムは最初の、そしてジミーはチャックに次いで2つ目の十字架を背負う事になる。

 

そしてハワードの死はジミーとキムが作ったお話の延長線上で「処理」される。夫婦仲をこじらせ、コカイン中毒で失敗した弁護士として入水自殺。ハワードの社会的名誉は回復されない。この様子では、クリフ・メインももう2人を追及することはないのだろうか?

 

 

スーパーラボ

ショベルカーで穴を掘るタイラス。彼はBreaking Badでもフォークリフトを自在に操っており、そちらの方面の経験があるのだろう。

そして並べられたラロとハワードの死体。マイクはTeaserで示された財布・結婚指輪・靴を回収して、穴に入れる際には「Easy」と声をかける。ハワードを悼む様子はうかがえるが、ラロと同じ穴に埋めてしまうことについては個人的に激しい憤りを隠せない。

 

とか言っていると、ハワードの中の人がこんなツイートを。

メタ的には笑ってしまうんだけど、ドラマにのめりこんでるとうわあああああってなってしまう。

 

 

予想との乖離

個人的には、可能性としては小さいことは承知で、ラロはBrBa後まで秘して生き残り、シーズンアートで赤いジャケットを羽織るジーン=ジミーは、ラロによる窮地からキムを救うためではないか、という万馬券的大穴の説を唱えてきた。

 

これはあっさり裏切られ、ラロの死がはっきり描かれてしまった。これを何らかのトリックで錯誤とするような制作チームではないので、ラロの死亡は揺るがない。

 

となると、残りの5話で何が描かれるのか。これが想像力不足の自分にはほとんど想像がつかない。自由の女神関係でケトルマン夫妻、黒い手帳関係で獣医カルデラの再登場はそれなりに濃厚ではあるだろうが。ウォルターとジェシーの登場の仕方も全く未知数である。

一つ回収すべきネタの方でも忘れていた事がある。ジミーとキムが共同事務所から退去する時に、ジミーが捨てようとした老人たちの名刺ホルダーだ。これが出てくるかどうかはフィフティ・フィフティよりも分が悪いとは思っているが、残りの5話でもしかしたら出てくるかもしれない。どういう形になるかなんて想像もつかないが。

(以下20220717追記)

もう一つ忘れていたが、裏をハワードを陥れるための作戦ボードにしたソファの上の風景画、殺された時に血しぶきがかかってる。血は恐らくマイクの手下たちが綺麗にしたんだろうが、あの絵がS6Ep01Teaserのソウル逃亡後の屋敷で運ばれているのがまだしっくりこない。いわばジミーとキムにとってはハワードを殺した准凶器、とまでは言わないが、ハワードの死への責任を思い起こさせるアイテムであるはずなのに。

 

一方、ガスとカルテルとの因縁で回収すべきイベントは全て済んでるように思う。基本的には弁護士サイドと、ジーン後で残り5話費やされるのだろうか?ジーンとなった後の話に使われる尺が1~4話と仮定すれば、Better Call Saulタイムラインで使えるのは4~1話と言う事になる。どういったバランスになるんだろうか。自分はジーン後は2話位じゃないかと思っているのだが。Rollingstoneの記事*4では、「at least one, if not more」と書かれている。

 

 

ヴィクター役のジェレミア・ベツイが、「シーズンはいつも通り素晴らしく、予測不可能な方法で締めくくられる」と語ったそうだ*5

 

今の段階では殆どの人にそんなわけないだろう、と一笑に付されるような筋書きを、説得力のある形で描いてくれるのではないか。そして、それは放送直後には混乱を生むが、やがて幾通りかの説得力のある解釈が得られ、「やっぱりこいつら(制作陣)にはかなわねえな!」と言わせてくれることを期待、そして確信している。