Better Call Saul S6Ep12 感想 (ネタバレ)
【注意】本エントリには、Breaking Bad/Better Call Saulのネタバレが含まれる。Breaking Badと、Better Call SaulのS6Ep11まで未視聴の方の閲覧は推奨しない。
「心を折りに来る」なんて表現があるが、そんなもんじゃすまない。ダイレクトに殺しに来てるエピソード。S6Ep09はショッキングではあったが、それはどれだけ語っても語りつくせないショックだった。本エピソードは未だに消化が追い付かない。何度となく見返しても未だに消化しきれない。言葉が出せない。
時系列順につらつらと箇条書き、最後に簡単にまとめだけ。
時系列について
- カラーシーンは全て2004年。時系列は本エピソード登場順。
- 2004年である根拠は、ジーン/ジミーが電話で言った「It's been six years.」
- モノクロシーンは2010年11月11日(Veteran's Dayという退役軍人の祝日、木曜日)からその翌日、電話を受ける日。そしてその少し後にキムがアルバカーキへ。さらに暫く後に前回ラストの続き。時系列も本エピソードでの登場順だと考えてよさそう。
タイトルコール
Lingk(最後のカモ、膵臓癌の男)の家の前に止まるジェフのタクシーが少し映るのみ。ブルースクリーンのタイトル後には一瞬、広々とした場所に立ちすくむ女性の後ろ姿。奥に見える屋根は、マイクがBrBaS5Ep07で、金を隠していた駐車場のだ。Google Street Viewで見ると、レンタカーバスがとまっているのまでみえる。
2004年
- Teaserで合衆国憲法にボールを投げつけるソウル。法の精神とかWho cares?という感じなのだろう。ボールを壁に投げつけるのはS4で店長をやっていた「CCモバイル」でもやっていた。(updated 20220905)
- ハリボテの柱を倒して、「正義の聖堂」もまたまやかしであると。
- Teaser終わり間際の目の光、白い光源を一瞬付けたのかな?
- 客もキムも1時間も待たせてるあたり、ソウルの深い葛藤がうかがえる。
- しかし、キムと相対すると、精一杯の強がりを。好きな子に意地悪する小中学生レベルの素振り。キムがS&Cに入る事を決断した時とは大違いだ。キムの持ち物だった絵やサフィロ・アネホのボトルストッパーを捨てていない事からもキムへの気持ちが残っている事は間違いなさそう。
- エミリオ・コヤマ!エミリオ・コヤマ!
- 最後のフランチェスカとキムとの視線のやり取り。フランチェスカもHHMに偽電話をした以上、起きた事全ては知らずとも、その原因があの件だという事を感付いているのだろう。
- 事務所の内装・外観はオープン直後のフランチェスカプロデュース「上品だけど居心地の良い」コンセプトは微塵もなく、Breaking Bad時代のそれに極めて近い。
- 雨のシーンはS6Ep03Teaserとここ以外にあったか?要確認。
- キムとジェシーとの会話は、「柱のに隠れていた男と会話する」のは、Breaking Bad最終話のスカイラーとウォルターとの対比*1
- ジェシーは20歳になる年。前回、ラロの名前も知らないと言っていたので、Captain Cookしはじめるかはじめないか、というタイミングなのかも。
- BrBaS2Ep08で、ジェシーがウォルターをソウルの事務所へ連れて行った最大要因のは、キムと話をしたから(そもそもキムの言葉は否定的な意味合いだ)ではなくて、エミリオを2回もscot-free(無罪放免)にしたからだろう。前回の話題だが同様に、ガスにブルーメスへの興味を抱かせた最大要因はソウルではなくゲイル。ソウルの影響度は低いはずだ。マイクは逆にガスを理解しきれていない。
- コンボがコロンブス騎士団教会のキリスト降誕シーンの人形を盗んだのが、コンボらしくてほっこりする。バッジャーやスキニーピートも含めてジェシーとその友達連中はちょっとヤンチャしてはいるけど、「大悪」とはわりあい距離がある感じ。
- 「When I knew him, he was.」これをどうとらえるかが非常に悩ましい……。今はどうか分からないという意味なのか、もう見限ってしまったのか。エミリオの「I don't do no paperworks」に「Who cares?」と答えるソウルの様子を見ていた事をおもえば後者要素が強いのだろうか。
2010年11月12日まで
- キムがさえない男グレンと親密そうにしているだけで泣けてくる。髪も染めたのか濃い色で、スタイルも垢ぬけない印象。声もジミーと話してた時よりもピッチが全体的に高めに聞こえる。作り声、演技の日常。
- 4組のカップルが集まってパーティーをしているが、キムは適当に話を合わせているだけで自分を全く出せていない。「色の無い」生活。
- 自分史上最悪のセックスシーン。拷問に耐えてるかのようなキムの息遣いがときおり聞こえて死にたくなる。「Yep! Yep!」を繰り返すだけのつまらない男グレン。メサ・ヴェルデのケヴィンを個人攻撃するために作ったビデオで、彼の父親が繰り返すのもこの「Yup!」。字幕での綴りは違うが発音も意味も全く同じ、「くだけたYes」。
- グレンが見るのは映画ではなく、バラエティー番組の類。一色ジグソーパズルをしながら、適当に相槌を打つだけのキム。顔だけは笑顔だが心からの笑顔には到底見えない。
- Homepage Builder!
- コピー取りはHHMの郵便室を思い出す。
- バニラかストロベリーか、アイスの好みも出せない。アイスといえば、S5Ep10では、ジミーがホテルで「チョコミントは抜いて」と。ラロに会うために半ば拉致のような形でナチョの車に乗せられた時のアイス。
- ヌルい職場の描写。ここでもキムはひっそりと息を殺してただ生きているという感じ。弁護士時代の職場とは大違いだ。
ジーンとの電話
- 相変わらずベラベラと喋りまくるジーン。キムと別れてから精神的に子供になってしまった。
- キムの「You shouldn't be calling me.」。関係がバレるといけない(どちらに?)からか、思い出したくないからか。全部な気がする。
- 「Feds couldn't find their own ass with both hands and a proctologist.」はFBIは簡単な仕事もできない、という事を最大限の侮辱を込めて言っている。賢いのは自分で、後はバカだとでも言いたげな青さ。「can't find one's butt with both hands」に、肛門科医までオマケにつけた言い回し。
- キムの「逃げ続ける生活は続かない」は、「いずれは捕まる」とヒューエルの時にソウル自身も言った(S4Ep07)。キムの「You should turn yourself in.」に対してBrBaS5Ep15で、ソウルは「Stay. Face the music.(逃げずに現実を受け入れろ)」とウォルターに言っている。癌による余命の事もあるので完全に同じ状況ではないが。
- 「Said the pot to the kettle!(自分を棚に挙げてよく言えたもんだ!)」は「The pot calling the kettle black」、五十歩百歩とか目糞鼻糞を笑うといった意味の言い回しの応用。何故お前は自首しないんだ?罪の意識があるならやってみろ!と当てこするジーン。
- 「I'm glad you're alive.」……。別れの際の「I love you. But, so what?」の延長線。ジミー/ソウル/ジーンとキムの距離は縮まらない。一方的にこれで電話を切るキム。憎んでいるわけではなく、gladも本心ではあるのだろう。
- 受付職員へのHappy Birthdayを歌い終わっての拍手中、キムの(作り?)笑顔の口角がどんどん下がる。S1Ep04 Hero HHM会議室でジミーが高所作業員を助けたニュースを観た時の逆。
- キムはこれまでのフロリダでの生活を「贖罪」だとおもっていたのかもしれない。しかし、実際はただ「逃げているだけ」に過ぎなかったことに、ジミーからの電話で気づかされたのではないか?
アルバカーキに戻るキム
- 時系列的には恐らく11月12日の少し後で、前回ラストよりは前。
- アルバカーキ空港に降り立つキム。タイトルコールラストに一瞬映るのはこのシーン。
- 裁判所の駐車場受付は機械化・無人化されている。新しい機械や、ブースのガラスに残る「CASH ONLY」のレタリングが、失ったものへの悲しさを増幅させる。
- 裁判所中庭の金網デスク&ベンチ。S5Ep07で、結婚前最後の話し合いをした場所だ。
- エレベーター前で、老人にネクタイを付けてあげる若い女性の弁護士。ご丁寧に髪型は以前のキムと同じ、巻いたポニーテールだ。制作陣はどこまで心をえぐってくれば気が済むのか。この弁護士が、S4Ep10でジミーが演説した万引き歴のある少女だという言う噂があるようだが、演者は別だし(Abby QuinnとMichelle Campbell)、恐らくは別。制作陣の発言があれば教えてほしい。
- 故ハワードの妻シェリルは、あの家に住み続けている。ハワードの写真も飾ってあり、当時不仲ではあったが相応の愛情もあった事が示されている。
- 警察はハワードの遺体の捜索をするそうだが、キムは恐らく見つからないだろうと。BrBaS5Ep15(本エピソードと同じく、penultimate、最後から2番目のエピソード)A1冒頭で、マリーが(恐らく)DEAエージェントから、ハンクとゴメスの遺体は必ず見つけると約束している。
- 「He was in the wrong place at the wrong time.」と、ラロと邂逅してしまったハワードについて言っているが、これはS4Ep05でチンピラに暴行されて使い捨て携帯の売上を奪われた時に言ったセリフ「you were just in the wrong place at the wrong time.」と対になる。(added 20220905)
- キムはシェリルに「一瞬で苦しまずに死んだ」事を伝えるが、6年経っても汚名を雪げないハワードに、一体その言葉が何の意味を成すのだろう。S6Ep09で、ナチョの父と会話した際のマイクを思い出させる。キムは自分が貶めたハワードの名誉を回復したいという意思をも示す。
- 検察にも同様の供述書を提出したが、キムが起訴されるかどうかは証拠不存在で怪しいと。「生きていれば元夫が証言できる」とも。
- レンタカーを返し、アルバカーキ空港へ向かうバスで抑えきれずに感情をあらわにするキム。隣から差し出される手がただ腕を撫でる。シェリルの最後のセリフ「Why are you doing this?」。やってはいけない事をやってしまった、魔が差してしまった後悔。間接的にでも、それが引き起こしたハワードの死。保身のためにハワードの死を更に穢したこと。それによってシェリルやその他関係者を苦しめたこと。それを6年間も放置して逃げ続けてきたこと。ひとまず、自分がやるべき事はやったこと。これから自分の身に起きうることへの覚悟。そういうもの達が一気に押し寄せてきて耐えられなくなったのだろう。
- それでもなんとか、キムは贖罪を始め、明るい道への歩みをはじめた。本エピソードで唯一喜べるところ。
前回ラスト以降
- グランドピアノを1音ならして、床でいびきをかいている膵臓癌男Lingkが起きないか試すジーン。ピアノはチャックへのコールバック。
- 前回、20分経ったら戻って来いと言ったジェフのタクシーが戻ってくるのを確認したのに、玄関の鍵まであけておいて、引き揚げずにさらに欲をかくジーン。ここで引き揚げていれば……。
- (恐らく)自動巻きの機械式腕時計3つをポケットに入れるジーン。葉巻だけならジェフは捕まらなかったかもしれない。
- よりにもよってペットの遺灰壺でLingkを殴るそぶりを見せるジーン。幸い彼は再び寝落ちして2人とも事なきを得る。ここまで落ちぶれるのか。
- ドランブイもレモンも入れない、デュワーズロックを飲むジーン。はじめて。
- 携帯に魔法をかけるそぶりは、S1ネイルサロンの奥の事務所で留守電にやっていた仕草。
- ジェフから連絡をうけて、マリオンに電話するジーン。アルバカーキ時代のジェフを思い出して動揺するマリオン。ジーンは「ソウル・グッドマン」時代のようにマリオンを言いくるめるが、保釈手続き等の詳しさから疑念を抱き、PCをネットにつなぐ。
- 電話線をPCに繋ぎ変えてるようにみえるが、2010年ではアメリカはまだダイヤルアップ時代だったのだろうか?56kbpsでは猫動画はおろか、普通のウェブページ閲覧すら辛そうだが、もっと速いモデムが出てたんだろうか?それとも自分の知らない別の方式なんだろうか?SD画質なら56kbpsでも見れる?
- マリオン宅へ向かうジーンが一瞬歌を止めた理由が分からない。何故??
- 裏口から入ってきたジーンにやっと気づいたマリオン。見ていた動画は丁度BrBaS2Ep08 タイトル直後でやっていたあのソウルのコマーシャルだ(S1Ep01 TeaserではこのCMは見ていない)。モノクロシーンなのに、眼鏡に映る在りし日の「ソウル・グッドマン」のCMがカラーなのはS1Ep01 Teaserラストも。1st to penultimateで、7年越し60エピソードを挟んでの超ロングパス。
- ジーンの正体に気づいたマリオンに迫りながら、電話線を手に巻き付けたのはただの脅しだったのか、本当にやってしまうつもりだったのか。犬の骨壺は脅したり得ない以上、こちらもそうなのだろう。
Better Call Saul 6x12 (Waterworks) / Breaking Bad 5x14 (Ozymandias)#BetterCallSaul pic.twitter.com/pzeE9LTEHp
— Lalo Salamanca (@godwalter1) 2022年8月9日
- 眼鏡に髭で、外見すらWalter Whiteと化してしまったジーン。ジーンにとってのマリオンはウォルターにとってのスカイラーとジュニアなのだ。ウォルターは自分を警察に通報するジュニアを見て我に返り包丁を手放し、ジーンは「I trusted you.(信じていたのに)」というマリオンの言葉を聞いて我に返り取り上げようとしていたコールスイッチを手放す。「信じていたのに」と直接リンクするイベントはこれまで無かったが、S3Ep10で孤立したアイリーンを元に戻すために、エリンと小芝居をする際、エリンが「These people trusted you, Jimmy.」と言っている。アイリーンとの出会いはまともな仕事のためだったが、マリオンとの出会いはそもそも利用するために近づいた事だ。ここで踏みとどまれたことが、ジーンにとって良い結末へと繋がればよいのだが……。
まとめ
贖罪の為にアルバカーキ空港に降り立ったキムと、良からぬ考えを加速させるジーン、それぞれの後ろ姿の対比。贖罪の道を歩み始めたキムと、既に落ちているのに、さらに転げ落ちてしまったジーン。バスの対比は気づいてたけど、後ろ姿の方はこのTweetをみてあっとなった。
「ベター・コール・ソウル」S6-12「Waterworks」
— sharikko (@sharikko) 2022年8月9日
アバンから雨音が聞こえる。かくも激しい雨が降るEPはなかったし、それはもちろん涙と対になる。主人公がここまで追い詰め、追い詰められるドラマはBrBaしか知らないが、最終EPは「Saul Gone」。予想を遙かに超え、これしかないという着地になるはず。 pic.twitter.com/9KovYMgll3
Waterworksは2つの単語にもわけることができ、そうすると略語はWW。本エピソードの脚本・監督はシリーズの生みの親Vince Gilliganで、勿論Walter Whiteを連想させる。前エピソードでジーンがBreaking BadしてWalter Whiteに。最終エピソードの「Saul Gone」はSGで、勿論Saul Goodman。脚本・監督はPeter Gould。Vince Gilliganばかりが持ち上げられる事が多いけども、Better Call SaulはPeterの物だというイメージがある自分には(勿論Vinceを軽視するつもりなど無いが)、これまでと同じくPeterが締めてくれるのはうれしい差配。
頻発する需要/欲望・トラブル・ハプニングを、ウォルターが場当たり的に切り抜けていき、意図しないコラテラル・ダメージを周りに及ぼし続けていくという、有る意味分かりやすいドラマだったBreaking Bad。そこで無造作に散らされた破片に意味を与え、ただでさえこれ以上無いほど高かったBreaking Badの完成度を更に強化する前日譚としてのBetter Call Saul。
努力で弁護士資格を手に入れたジミーやキム、そしてエスタブリッシュメントとしてのハワードと、そこへ上り詰めたチャック。悪い世界に軽い気持ちで足を踏み入れたナチョに、フィラデルフィアで息子の敵討ちを果たして義理の娘と孫を追いかけてきたマイク、カルテルに大きな恨みを抱きながらもその一員として動きながらも、復讐を謀るガス。
弁護士サイドと裏社会サイド、ゆっくりと小さく、しかし丁寧に始まった2本の流れが勢いを増しながら、S5で接触してS6で大激突。そしてスピンオフ元の後の世界で、Better Call Saulの主人公ジミーとその相棒キムはどういう結末を迎えるのか。
ウォルターは最後にはSchwartz夫妻に家族への金を託し、ジェシーを助け、ジャック達ネオナチ一味を一掃して復讐を遂げ、自らも散った。実際に家族に金が渡るかどうかは分からないが、本懐を遂げた「つもり」で逝けた。視聴者的にもカタルシスがあった。
一方、今度こそ人消し屋に頼る以外無いほど追い詰められたジーンに待っているのはどういう未来・結末なのか。前エピソードの「墓穴に埋まるジーン」の暗示は現実となるのか。かつてウォルターに助言したように、そして今回キムに言われたように観念するのか。
キムの贖罪の行く末も気になる。
ここまで、Breaking Badのようなカタルシスを得られるエンディングへの道は全く見えない。そこをこじ開けてくるのか、開けないのか。
最終話、Fandom Wikiにはrun time 65分と出た。
前回のStarringはBob OdenkirkとJonathan Banks、今回はBob OdenkirkとRhea Seehorn。前々回はBob一人。最終回ははたして……?
2008年にBreaking Bad第一話が始まったアルバカーキ・サーガ。14年続いたシリーズのUltimate Episodeがもうすぐそこだ(自分はリアルタイム視聴はBCS S4からの途中参加組だけど)。