ベターコールソウルSeason6のタイトルが暗喩するもの(ネタバレ有)
【注意】本エントリには、Breaking Badのネタバレが含まれる。Breaking Bad未視聴の方の閲覧は推奨しない。
Better Call SaulのSeason1とSeason2では、各エピソードのタイトルに一定のルールを設けたり、暗号を埋め込んでいた。
Season1
Season2
Season3~5ではこういう事をしていないようだが、Season6では復活したようだ。
現在公開されているEp07までのオリジナルタイトルは全て「and」で繋がれている。
- Wine and Roses (青き春は過ぎ)
- Carrot and Stick (アメとムチ)
- Rock and Hard Place (万事休す)
- Hit and Run (ピンチはチャンス)
- Black and Blue (アザだらけ)
- Axe and Grind (目には目を)
- Plan and Execution (計画と実行)
Season6の放映にあわせてBetter Call SaulやBreaking Badを見直していて気づいたのだが、これら(エピソードタイトル)はすべて両作品における出来事やセリフと繋がっている。
Better Call SaulとBreaking Badを繋ぐシーズンであるSeason6でこういう仕掛けを入れてくるのが「いかにも」だなぁと思うのはおそらく自分だけではないだろう。
1. Wine and Roses (青き春は過ぎ)
冒頭フラッシュフォワードで流れる映画Days of Wine and Rosesの曲が元になったタイトル。酒とバラの日々。幸せだった昔。
WineとRoses、この両者が連続して出てくるシーンは無いが、Wineではなく本作でおなじみのテキーラ「サフィロ・アネホ」であれば存在する。S3Ep09 「Fall(転落)」で、キムが車で事故る直前。オフィスでの会話、45分頃。ガトウッド石油の件で天手古舞状態のキムに、サンドパイパーとの和解が成立する見込みが立ち、サフィロ・アネホで乾杯しようというジミーのセリフだ。
英語
You gotta stop and smell the roses.
Hey, who's got two thumbs, a bottle of Zafiro...
...and 20 percent of the common fund? This guy.
字幕
少しは休まないと
最高の酒と 大きな報酬を手にした奴は?
吹替
ちょっと手を休めて楽しまなきゃ
なぁ、最高級のテキーラのボトルと、報酬の20%持ってんのは誰だ~?俺だ~!
残念ながら日本語では薔薇のバの字も出てこない。酒/テキーラのみだ。
ちなみに「who's got two thumbs」「This guy」のくだりは、Urban Dictionary: Who's go two thumbs? によると、ドラマ「Scrubs」で人気になったフレーズのようだ。
2. Carrot and Stick (アメとムチ)
このセリフが登場するのはS2Ep02 「Cobbler(クリームパイ)」25分頃。盗まれた野球カードの事で駄々をこねるプライスのために仕方なく、ナチョに返すように交渉しに行ったマイクのセリフだ。
3. Rock and Hard Place (万事休す)
こちらは変わってBreaking Bad S4Ep09「Bug(膨らむ疑惑)」39分頃。一般的な表現では「between a rock and a hard place」で、「板挟みになって」「どうしようもなくなって」という意味。目の前で人を殺されたジェシーが、ガスの状況(カルテルとDEAとの板挟み状態)を説明する時に使ったセリフだ。
4. Hit and Run (ピンチはチャンス)
野球で言えば打って走るの「ヒットエンドラン」。一般的には「ひき逃げ」「奇襲」という意味があるそうだ。ここでは前者。Better Call Saulの最初のエピソード、S1Ep01「Uno(駆け出し)」で、ジミー・マッギルがソウル・グッドマンへ滑り落ちる、きっかけというか最初の一歩になったとも言えそうな、ひき逃げ計画の事だ。このセリフは当たり屋スケボー兄弟のもの。
5. Black and Blue (アザだらけ)
こちらはまたまたBreaking Badに戻る。S2Ep07「Negro y Azul(噂の男、ジェシー)」、このタイトルと結びついている。「Negro y Azul」はスペイン語で黒と青、つまり「Black and Blue」だ。コールドオープンで流れるナルココリード*1が印象的なエピソード。黒と青は、ハイゼンベルクのシンボルカラーの「黒」と、ハイゼンベルクが扱うドラッグ、ブルーメスの「青」。もしくは、本エピソードでジェシーと親密になるジェーンと見ている選局設定中の「青」い画面の、「黒」が凄いプラズマテレビかもしれない。また、本作における色の使いかたについてはこちら(ベターコールソウルとブレイキングバッドのColor Code - toorisugari3のブログ )もご覧いただきたい。
なお邦題のとおり、「Black and Blue」にはアザを指す用例(S6Ep05はまさにこれ)もある事は補足しておく。
6. Axe and Grind (目には目を)
こちらもBreaking Badから。S3Ep07「One Minute(ハンクの苦しみ)」。本エピソードの最後で、ハンクはカズンズことサラマンカの双子に襲撃をうけ、撃退する。その際に片割れが持っている「斧(Axe)」と、別の片割れの下半身を車で「すり潰す(Grind)」事。
7. Plan and Execution (計画と実行)
Plan and Executionとまとめて書けば邦題通り、「計画と実行」と訳すのが普通だ。一方で、Executionには「処刑」という意味もある。本タイトルの物騒さは本エピソード放映前から散々危ぶまれていたが、「ご覧の有様」となってしまった。
Breaking BadにもBetter Call Saulにも、数多くの「計画」と「実行」「処刑」がある。その中でも本エピソードと一番マッチするのは、Breaking Bad S4Ep01「Box Cutter(ガスの怒り)」だろう。コールドオープンでスーパーラボの備品の開封(Plan)をするゲイル、そしてそのスーパーラボでのガスによるまさかのビクター処刑(Execution)。これを象徴するのがどちらにも使われるオリジナルタイトルの「Box Cutter」。
これら一連のタイトルは、Better Call SaulからBreaking Badへとつなぐシーズンのタイトルとしてはこの上ない「仕事」だと思う。後半のタイトルもきっと同じルールでつけられるのだろう。
しかし、こうしてみると邦訳で失われたニュアンスの大きさに気づかされる。そもそも全て「and」で繋がれているタイトルからして邦訳では全く考慮されてない。
言語の壁をまたぐ以上、ある程度のニュアンスの喪失が避けきれないのは当然ではあるが、翻訳されたセリフ等からは得られない「ネタ」を探すのも一興ではなかろうか。しゃぶればしゃぶるほど味が出てくるのが「アルバカーキ・サーガ」だから。
言うまでも無いが、邦訳がいいかげんになされているという趣旨ではないので悪しからず。