toorisugari3のブログ

ベターコールソウルの事について、ネタバレ込みでつらつらと

Better Call Saul キムの、ジミーとの化学反応 S5Ep10まで (ネタバレ)

【注意】本エントリには、Better Call Saulのネタバレが含まれる。Better Call SaulのS6Ep09まで未視聴の方の閲覧は推奨しない。自分で気づきたいという人にも勿論推奨しない。

 

 

S6Ep09でキムはジミーとの関係について、「別々ならいいけど、一緒に居ると毒になる」と言った。これまでの、「キムが『ジミーと一緒』でなければ踏み込まなかっただろう」言動、ジミーとキムとの間におきる「化学反応」イベントについて、S1からS5終了までを、キムの視点からピックアップしてみたい。また、キャラクター解釈の一つの鍵となる、ジミーとの性行為が行われるタイミングについても強調表示しておいた。

まとめていってる間に気が付いたのだが、キムがジミー以外の男と親密にしている場面が全く無い以上、「ジミーと一緒でなければ」という仮定を比較検証する事ができない。各場面でジミー以外でもありだと思うか否か、一般的にはどう思われているのだろうと気になる所ではある。

「余談」部はすこし話題がそれているので、興味が無ければ読み飛ばして頂きたい。

 

キム・チャック・ハワードあたりの縦軸まとめはいつかやりたいなぁと思いつつ出来てなかったが、キムに関しては丁度いいタイミングなのかもしれない。

 

直接は関係無いコールバックへの言及をするのは、本ブログを書く最大の動機なので許してほしい。

 

 

Season1

ハワードへの反抗

ジミーがサンドパイパーの詐欺的な運営に気づき、チャックと一緒に巨額の賠償金が見込める集団訴訟に持ち込んだ。ハワードはジミーに最終和解金の20%を提示するだけで、案件への関与を認めず、それなら案件を潰すというジミーにも取り合わなかった。

 

あまりに理解しがたい態度なので、キムはなぜジミーに部屋を与えないのか、ハワードに聞きに行く。「もう決まったことだ」といわれても「でもなぜ?」と聞き返し、「パートナーで決めた事だから君には関係無い」といわれても「関係あるわ、友達だから」と引き下がらない。「やる事や言い方に問題はあっても、いい弁護士よ」と説得を試みる。そしてハワードに「君が口を出す問題じゃない。次からは黙ってろ、聞く気も無い」(意訳)とまで言われてしまう。直後、思い直したハワードに事実を教えてもらいはするのだが。

 

ジミー以外であれば、最初の「もう決まったことだ」で諦めたか、そもそも理由を聞きに行かなかったかもしれない。同じように親密な相手が居れば、これと全く同じ態度を取ったかもしれない。

 

 

Season2

ケンに高額飲み代を奢らせた事

Ep01。弁護士を辞めると言い出したジミーを心配して、説得のためにホテルに駆け付けるキム。プールからホテルのバーに移動して説得を始めるのだが、ジミーの決意は揺るがず、大声でイキり散らしていたケンを、嘘の遺産の運用を任せるていで飲み代を奢らせる。1ショット$50のサフィロ・アネホを1本あけて、勘定を見たケンを仰天させたやつだ。この時記念にと貰った特徴的なボトルストッパーを、キムはずっと大切にしてきた。

 

ジミーが最初にケンに話しかけた時、キムの表情は固く、テーブル席にうつって名前を聞かれて態度を決め、話に乗る事にしたように描かれている。ジミーが居ないキムならばここで話に乗ってタダ飲みをしようなんて思わなかっただろう。実際、この直前にジミーが偽名でタダ飲みしようとした事をとがめている。そもそもこんな寸借詐欺を実行に移すような人との深い付き合いは、ジミー以外では考えにくいのでは。そもそもキムのプライベートは殆ど描かれず、同僚たちやかろうじてメサ・ヴェルデの法律顧問であるペイジとの関係の良さだけが描かれているだけではあるが。

 

(主に)酒を飲む場所での寸借詐欺はマルコとやっていた事へのコールバック。

また、この夜キムのアパートで恐らく初めての性行為が行われた

 

エンジニア、デイルから小切手をだまし取る

Ep06。Forque Kitchen and Barのカウンターで一人モスコミュールを飲むキム。シュワイカートからの誘いに心揺れていると、バーテンダーから奢りの仲介が。相手はネイビースーツのナイスミドルなエンジニア、デイルだが、キムは直前にこの男が緑の服を着て、左手薬指に指輪をはめた女性と別れ際にキスをしているのを目撃している。

表面上にこやかに対応するキムは電話でサンタフェのオフィスで働いてるジミーに「獲物がかかった、今すぐ来て」と電話をする。ジミーは勿論飛んでくる。

 

サンタフェ アルバカーキ 距離」と入れて検索するとおよそ100kmとでる。この距離を仕事中に呼んでしまうキムのこの行為は、ジミー相手以外では考えられない逸脱ではなかろうか。しかもEp01では、ジミーが逆に同じことをやろうとして留守電にメッセージまで残したが、結局思い直した事をキムがやっているのだ。この事とケンを騙した事との二重のコールバックになっている。この立場の逆転も良く使われるスキームで、一度纏めてみたい。

結局だまし取った小切手は換金せずにとっておく事にしたようで、実害はあったとしても飲み代くらいだろう。いつ換金されるか分からない不安は不貞の代償というわけだ。

 

ジミーはキムのアパートでこの翌朝を迎え、性行為があった事をほのめかしている。

 

HMM退所時のメサ・ヴェルデ案件(added 20220828)

Ep08 A1冒頭で、独立を決めたジミーとキムはホットドッグ屋でお祝いをしている。夜の間にハワードの机の上に辞表を置いて、メサ・ヴェルデやほかのクライアントを引き抜くんだ、というジミーにキムは「助言はありがたいけど、それぞれのやり方でやるはず。私にとって正しいやり方を見つけなきゃ」と断る。明確に否定したわけではないが、これはメサ・ヴェルデをHHMからは奪わないという宣言だとみる事も出来る。

そうだとすると、キムは翌朝ハワードに辞表を渡した直後、メサ・ヴェルデとすぐ連絡を取ろうとしたハワードの様子をみて、慌ててペイジに連絡し、メサ・ヴェルデを確保しようとしている。

もし、最初はメサ・ヴェルデを持ってゆくつもりがなかったとすれば、これもジミーとの化学反応になるだろう。

 

住所書換の証拠隠滅の唆し

Ep09。銀行委員会の聴聞会でジミーが書き換えた住所によりチャックは大失態を晒してしまう。この事でメサ・ヴェルデは業務拡大案件をHHMから引き揚げてキムに依頼する事になる。書類を一緒に取りに来たジミーとキム相手に、チャックは「ジミーが住所を書き換えたのだ」と糾弾するが、ジミーは勿論キムまで「ただ間違えただけなのでは?」と助け船を出す。

これは勿論キムはジミーがやったと確信してそれでも助け船を出したのだ。直後ジミーのEsteemの中でジミーを叩くことからも明らかだ。そして、その晩、ベッドで眠ろうとするジミーに「相手の言い分のわずかな隙すら見逃さない」と、チャックの有能さを強調する事で証拠隠滅を促すのだ。そして自分の隙に気づいたジミーはコピー屋へ走り、そこに一足先に来ていたエルネスト(HHMの従業員、メールルームでの同僚)を目撃する。

証拠隠滅を直接指示するのではなく、ジミーに自分で気づかせる言い方をした事で、「キムはジミーを利用してるだけなのでは?」なんて憶測まで産んだシーンだ。

これもジミーでなければ絶対にしなかった逸脱だろう。

 

また、この直前のエピソードEp08からジミーとキムはキムのアパートで同棲を始めたと思われる。

 

 

Season3

ジミーの弁護

Ep01では、チャックの引退を思いとどまらせた事を聞いたうえで、詳細については「二度と聞きたくない、と言ったことかも」といわれ、「ならいいわ」と知る事を拒否する。

Ep02ではエルネストからジミーの危機を聞いたキムは「1ドル出して」と、ジミーの代理人になる(実際受け取ったのは20ドル紙幣だが)。これはBreaking Badでの初登場エピソードで、荒野に拉致されたソウルがウォルターとジェシーに言った事と同じ、コールバック。

Ep03では、エルネストから事情を聴いて慌てて裁判所に駆け付け、罪状認否でジミーの代理人だと関わろうとするのだが、ジミー本人が拒否して引き下がる。しかし、このエピソードの最後の場面で「どうしてこんな男に?(This guy? Seriously?)」「サンクコストの誤謬ってやつよ(Let's just call it the fallacy of sunk costs.)」、と結局代理人を引き受ける事になる。

このジミーの弁護にしても、嘘だと分かっている事を否定する弁護は、ジミー以外だとキムは引き受けなかったか、そもそもそういう人物とは交流しなかったのではなかろうか。受けたとしても、動揺させるためにレベッカを利用したり、ヒューエルを使ってチャックのポケットにフル充電のバッテリーを忍ばせるという荒業はつかわなかったのでは?

 

余談「やっぱりやる」案件

こういう風に、一度やらない事にしておいてやっぱりやる、となる展開はBreaking BadでもBetter Call Saulでも多用されており(ウォルターの化学療法や、ガスとの仕事、下で触れるガトウッド石油案件や建設図面の差替え案件等)、機会があればまとめてみたい。

 

日本語訳についての余談

この「Let's just call it the fallacy of sunk costs.」というセリフは、日本語字幕では「簡単にはあきらめない」となっている(吹替は「乗り掛かった舟ってやつよ」。上での例は拙訳)。このエピソードの邦題は「乗り掛かった舟」で、原題は「Sunk Costs」。大事なセリフなのに字幕でわざわざこの言葉をはずす意味が分からない。原語ではこのセリフとリンクしているのに。

しかも、この「fallacy of sunk costs」はS2Ep01 ホテルのバーで、ジミーが弁護士を辞める言い訳として使った言葉で、そちらでは吹替字幕共に「埋没費用」で統一されている。わざわざコールバック・リンクを外すような真似はせず、全て「埋没費用」で統一すべきだと思う。個人的に一番許せないエピソード邦題だ。

S6Ep09の「Fun and Games(楽しい駆け引き)」については、批判の向きもあるが、個人的には「駆け引き」をストレートに「ゲーム」にしておけば良かったんじゃないか程度に思っている。ケイリーの玩具のMarble Runは「駆け引き」ではないからだ*1

 

ガトウッド石油案件の受任

Ep09では、ガトウッド案件の(恐らく)書類を会社へ宅配便で送るようにフランチェスカに頼むのだが、腰を痛めてまで折半の約束をした経費をかき集めてきたジミーを見てそれを取りやめる。これはジミーからすれば「ノーサンキュー」な行動ではあったのだろう。しかし、キムからすればジミーが腰が痛いと寝転んでる姿(ギターを弾いてはいるが)を見て少しでも助けになれば、お金の余裕があれば、と思ったのだろう。

これを他の事務所に回さず自分で引き受けた結果、居眠り運転で利き腕を折るはめになってしまう。この件もジミーの弁護士資格停止も、考えてみればジミーとキムが一緒に居る事で産まれる毒によるものだ。この毒は彼ら自身にも危害を与えていたのだ。

 

 

Season4

ハワード断罪

Ep02。キムは前のエピソードでハワードがキム達のアパートを訪れ、チャックの死は自殺ではないかといった事を責め立てる。レベッカには話してないんでしょう?と。

火事のにあった家の残骸から遺品を選べ、ジミーには雀の涙ほどの金額しか残さないのに学生に渡す奨学金基金の委員になれ、死んでまで糞ったれ!と伝えるための手紙を渡せ。そういうのか?とハワードを断罪する。

 

キムの怒りについては十分に共感できるのだが、果たしてこれらは全て断罪されるべきものなのだろうか。「忘れてない事を示すための最低限の金額」の現金相続や、奨学金基金の委員にすること、手紙を渡す事については、悪いのはチャックであり、代理人でしかないハワードは責められる筋合いは薄いのではなかろうか。これまでずっとジミーではなくチャックの肩を持っていた事は確かだ。しかしこれは立場の違いによるもので、相当割合は言いがかりに近く、ジミーへの想いがなければここまでの怒りは見せなかったのではないか。

 

キムは知る機会が無かったが、自殺の可能性を伝えた事については、ハワードも無神経な所があったが、その大本の原因を作ったのは、保険会社に弁護保険の査定に影響するネタをタレこんだジミー自身でもあった。

 

Ep03の最期では、ここで渡された手紙をジミーが読み上げ、聞いていたキムは感極まって嗚咽し、一人寝室に閉じこもってしまう。

 

手紙の解釈についての余談

New York TimesでのS4Ep03のDavid SegalによるRecap*2で、「この手紙は明らかにキムが書いたもので、オリジナルは捨てた」と書いてあってぶっとんだ。

Kim Wexler. She has clearly ditched the letter that Charles left for Jimmy and turned it into a warm and sentimental farewell, filled with the sort of brotherly love so anathema to Chuck. 

他所の媒体でもはこれに触れているのがあって、「あまりあり得ない」*3と評されていた。この後のエピソードでこの事を回収してあれば、見事な洞察だ!となったのだろうが、そうはならなかった。プロのライターでもこういうとんでもないミスをするんだな、と少し面白かったお話。

 

ヒューエルの弁護

Ep07。暴漢だと思い込んで警官に暴行してしまい、塀の中に入る位なら逃げてしまおうとするヒューエル。弁護士資格停止中のジミーは自ら弁護できず、キムを頼る。路上で使い捨て携帯を売っていた事に驚きつつも、ジミーの頼みとあってやる事にしたキム。しかし、最初は汚い方法は使わず、真っ当な方法でやるつもりだった。

 

ところが、担当検事のスザンヌとの会話でジミーを貶されてキムは頭に血が上ってしまう。ジミーを「scumbag(ゲス)」扱いしたのだ。

And our only witness is a scumbag, disbarred lawyer...

...who peddles drop phones to criminals.

Ep07の37分20秒あたり。この「scumbag」でキムの目の色が変わる様子がド迫力なのでぜひ見かえしてみてほしい。

 

ドヤ顔するスザンヌに「知らない癖に」と捨て台詞を吐くキム。直後に会ったジミーは、合法的なやり方では服役は免れそうにないと聞いて「俺のやり方で」と聞いて立ち去るのだが、キムは文具を買い漁り、ジミーに「もっといい手がある」と告げる。Ep08でやった大掛かりなヒューエル厳刑のための「詐欺」だ。これはS2Ep02でジミーがやった証拠捏造について「二度とそんな話は聞きたくない」とキム自身が言った*4、まさに「そんな話」で、ジミーと居なければ起き得なかった話だ。

 

また、この事件完結直後に朝2人が裸でベッドで抱き合うシーンがあり、3度目の性行為の示唆が行われる

 

日本語訳についての余談

この「scumbag」のシーン、字幕のほうはちゃんと「ゲス」という言葉が入っていて良いのだが、吹替のほうでは「唯一の目撃者は 犯罪者にプリペイド携帯を売りさばいている 資格停止中の弁護士よ」となって、「scumbag」の訳が消えてしまっている。しかも、語順を変えたために、キムの目の色が変わる瞬間が「犯罪者にプリペイド」あたりになってしまっていて、完全に翻訳過程のミスとしか言いようがない映像になってしまっている。

さらにさらに、このscumbagの件はS6Ep03で直接的な言及がされていて、「以前彼を ゲスな弁護士と呼んだわね」という吹替がなされている。ゲスって呼んでないのに!

余談についての余談

このキムの蒸し返しの直後に、スザンヌが「確かにソウルとの間にわだかまりはあった。でも、派手に振る舞っていても弁護士や人としての誇りを忘れてないとも信じてる」と言うところが、個人的に本当に大好きで、初見の時も見返す時も涙ぐんでしまう。このセリフには理由があって、最初にゲス呼ばわりした後、S5Ep02でジミー(既に屋号はソウルだが)とスザンヌはエレベーターの故障で2人だけで閉じ込められてしまい、その間にお互いが抱えている案件について交渉して、少し打ち解けるのだ。しかしこの故障はジミーの仕掛けで、管理人を買収したためでもある。ジミーではなくて、スザンヌの人を信じる姿に感動して泣けてしまうのだ。

 

建築図面の差し替え

Ep07。ヒューエルの件が完了した直後、メサ・ヴェルデとの会議で、ケヴィンが建設計画提出済みの支店の建物設計を、派手で上手くいった他の支店と同じものにしたいと言い出す。一度は無理だと結論付けたのに、キムは自室でジミーとケンをハメた思い出の「サフィロ・アネホのボトルストッパー」を取り出して眺める。そしてジミーに会いに行き、「あんないくつもの法を犯すような危険な真似は二度としない」と言うジミーに「もう一度やりましょ」と、違法行為を持ちかけるのだ。

個人的な話だが、この時の唖然としたジミーの表情と、逆に挑発的なキムの表情ほんと大好きでたまらない。

 

弁護士資格停止1年延長の取消工作

Ep09。S&Cの駐車場でジミーと喧嘩した後、アパートで「まだ弁護士で居たい?」と聞くキム。返事は「Yeah.」。S2Ep01で、弁護士を辞めると言った事へのコールバック。

そしてEp10では、再審査(appeal hearing。異議申立?)へ向けて、墓前で悲しんだり、読書室への寄付でチャックへの追悼の意を印象付ける手伝いをする。本件はあまり違法性のあるような逸脱ではないが、わざわざこんな事をするのはジミー以外ではあまり考えにくいのではないか。

またまた個人的な話だが、このS4Ep10 Winnerは、S6Ep09 Fun and Gamesが放映されるまで、一番好きなエピソードだった。特にTeaserでジミーからマイクをぶんどって歌うチャックが好きだった。勿論エルネストやジミーの歌、そしてエピソード最後の「It's all good, man」も含めてだが。

 

 

Season5

おとり警官に冷蔵庫を売りつけた依頼人

裁判になれば確実に懲役2年以上になる依頼人がどうしても懲役5か月という圧倒的に得をする取引を飲もうとしない。少し離れた場所でジミーとキムは会話をし、ジミーは「俺が検察役をやってビビらせて取引をのませよう」というが、キムはきっぱり拒否する。しかし、依頼人のもとにもどると、依頼人がジミーが言った通りの筋書きを信じていて、依頼人の利益になるなら、とこの誘導を受け入れてしまう。

直後、階段で鞄を投げだし、無言で逡巡するキムの様子が描かれる。

これはS6Ep01で、検事と刑事相手にうっかりラロの名前を出してしまい、無人の法廷でうなだれるジミーとのコールバックかもしれない。

 

売り家の内見ではしゃぐ

Ep02。ジミーが強引に内見に連れていき、じゃれるうちにキムはシャワーでジミーを濡らしてしまう。不動産業の女性はそんな2人を冷たい目で見送る。

 

トゥクムカリの立ち退き案件

Ep03。本当は「アラバマ物語」の主人公のように、「弱きを助け、強きをくじく」仕事がしたいキム。メサ・ヴェルデのような強者の代理人となり、アッカーのような弱者を長年住んだ家から追い出そうとしてる現実に気づいてしまう。

そのうっぷんを晴らすためか、アパートのベランダからビールの瓶を投げ捨ててしまうキム。向かいのアパートの電気がいくつかつき、扉が開く音がすると2人は笑い転げながら部屋へ戻る。

 

Ep04。昨日投げ捨てた瓶の破片を律義に掃除するキム。ジミーは勿論そんなことはしない。

 

(added 20220909) Ep03の最後とEp04の最初の間に、ジミーとキムが性行為していた可能性について漏れていた。Ep04 A1冒頭、ジミーが全裸、キムも腰から下は掛布団で見えないが、恐らく全裸で目覚めるシーンから始まる。

ここはしていたとするのが自然な気がする。ジミーとの不道徳行為の後だからだ。

 

 

法廷にいるジミーに会いに行くと、本当の被告は傍聴席に、偽の被告を被告席につけて審理無効を勝ち取る場面を目撃する。そして、ジミーにアッカーの味方をするように依頼する。

 

Ep05。アッカーの代理人となったジミーとの利益相反を自ら申告してケヴィンを操り、メサ・ヴェルデ代理人を続ける事に成功したキム。

その晩通算4度目の性行為の暗示(一緒にシャワーを浴びる提案)

 

ジミーは様々な引き延ばし工作をするが、ケヴィンは「父に逃げるなと教わった」と強行姿勢をくずさず、ジミーを「low-life shyster(下衆野郎の悪徳弁護士)」と呼んでしまう。スザンヌの「Scumbag」の時のような露骨な反応は見せないで、なんとか怒りを抑えこんでいるような様子。

その晩、まだやれる事があると匂わすジミーを問い詰め、「汚い手で個人攻撃、しかも危険な手」がある事を聞き出し、それをやるという。

本件も逸脱のトリガーになったのはジミーへの侮辱だろう。

 

最終的にこの件は、キムが中止しようと言って了解したのに、ジミーが暴走して結局はアッカー有利に事が運んでしまい、クライアントであるメサ・ヴェルデに損害を出す事になってしまった。

 

シュワイカートへの激昂

トゥクムカリ案件に付随する出来事だが、本件から外れた方が良いと提案するシュワイカート相手に、事務所のメンバーたちに見えるところで激昂して怒鳴りつけてしまう。「恋人が偶然相手方の代理人になったのが信じられない」と言った事でキレたように見える。

 

ジミーとの結婚

Ep07。なんと「お互いに不利な証言をしなくて済む」という理由で結婚してしまう二人。ジミーとの出会いが無かった世界があったとして、こんな形でキムが結婚する事がどれくらいあり得るのか……。

 

メサ・ヴェルデへの謝罪の場での反論

Ep07。結果的にジミー(ソウル)に負け、損害が大きかった事をシュワイカートと一緒に謝罪に出向く。キム達の退出間際にケヴィンは「あいつ、マッギルだかグッドマンだかいったが、もっとましな相手を選べ」と捨て台詞を吐き、キムは露骨ではない程度に憮然とする。

退出後、「言いたい事は言う」と思い直してケヴィンのもとにもどり、キム達が提案したのにケヴィンが却下した事を列挙し、もう少し人の意見を聞くべきだと諫言する。

結果は木曜日、と言う事だが、その晩アパートに帰った2人は5度目の性行為をする。事後描写だったこれまでと違い、「おっぱじめる」ところのかなり露骨な描写。

 

代理人だと偽ってのラロとの接見

Ep08。こういう正規ではない手順を正当化するために結婚したわけだ。しかし、ラロには相手にされない。しぶとく生き残る奴だ、とジミーをゴキブリに例えるが、ここではあまり反応が無い。ジミーの生死の話でそれどころではないからだろうか。

 

S&Cを退職

Ep09。休みをキャンセルしてS&Cに出社したキムは、メサ・ヴェルデの仕事を始める。ボイスメモを取りながら、机の後ろに並んだメサ・ヴェルデの記念盾と、額装したプロボノ依頼人から貰った手紙・写真を見る。

ボイスメモが滞りはじめ、何かを決断したように中止して席を立って、シュワイカートに辞職を申し出るキム。勿論シュワイカートはじめ頭の上にクエスチョンマークが出ているかのようだ。

HHMを辞めて独立開業した時は、内部で干されたりいじめのような待遇を受けていたので理解できる部分はあるが、しかしこれもジミーをD&Mに推した事がきっかけだ。

一方でパートナートラックに乗っていたD&Mを辞めようとするのも、恐らくジミーとの交流がなければキムはしなかった事ではなかろうか。ジミーと出会わなかったキムなら、社会的弱者を弁護する事と大企業の顧問をする事を両立していたように思える。

 

ラロの追及への介入

Ep09。ジミーの乗車だったEsteemが、弾痕つきで溝に落とされていた件について、怪しいと思ったラロはジミーに何度も話を繰り返させる。ラロのしつこさに押され、「そんなに疑うなら報酬の金を持って帰れ」と言ってしまう。

報酬の金が入った鞄には、穴の開いたトラベルマグが入っている事を知っているキムは、ここで激昂し「信用できる部下もいない癖に、苦労して仕事をしたジミーを責めるな」と援護する。

ラロはこの後、一人で国境を超える予定だったが、このキムの「信用できる部下も居ない癖に」という言葉が気になったのか、予定を変更してナチョもメキシコへ連れ帰る事にする。そしてナチョは、ガスのラロ邸襲撃計画に足りなかった「内通者」として利用され、結果S6Ep03での死に至る。

ナチョの運命は元々厳しいものではあったが、ジミーとキムは、ナチョを死に導いた一因でもあるとも言えるだろう。

 

また、このラロの嘘追及のしつこさは、形は違うがトゥコのそれ(目を睨んでの「ウソ発見器」S2Ep04)と同根で、サラマンカの手口であり、コールバックなのかもしれない。

 

また、S6Ep09の感想エントリ*5でも触れたが、HHMでの告別式にてシェリルに詰められたジミーに助け舟を出すキムは、これへのコールバックだ。キムはジミーの窮地を見逃せない。ジミーがキムの窮地を見逃せない様に。

 

ハワードの忠告を一笑に付す

Ep10。裁判所でハワードと偶然出会い、S&Cを辞めた事を話すと、ハワードは個人的に話をしたいといい、空き法廷で話をする。ボウリングの球で愛車を破壊された事や、会食中に娼婦を送り込まれて体面を潰された事をハワードが伝えても、キムは笑って相手にしない。

後のジミーとの会話で、ハワードが言った事を嘘だと思ったわけではなく、ハワードはそれくらいやられて当然だと言っている。恐らくこれは本心なのだろう。しかし、いくらハワードからの嫌がらせに我慢がならなかったからといって、これを正当化するキムには違和感があるし、このあたりからキムの言動を不可解だとみなす声がネット上でも増えてきたように記憶している。

これもジミーとの関係のせいだと考えれば納得も行く。

 

ここでジミーの影響の指摘、ジミーをまともじゃない、理性的な行動が出来ないと評するハワードの言は客観的には正しいのだろうが、キムには届かない。これはS6Ep07でキムのアパートを訪れて、ジミーとキムを評したハワードの言とも一致する、コールバックだろう。

 

ホテル滞在を楽しむ事

朝はジミーが今日はホテルでゆっくりしよう、キムは用心しながら普段と同じ暮らしをするしかないといった。しかし、ラロの死をマイクが保証してからは逆に、ジミーが家に帰ろうと、キムがホテルでの滞在を楽しもうと提案する。立場の逆転が見られる。

ちなみに朝も夜もキムの案が通っている。

 

ハワードを嵌める妄想

キムの提案通り、ホテルのルームサービスで贅沢な夕食を取る二人。キムは「ハワードはやり込められて当然」と言い、ハワードを酷い目にあわせる妄想を、仮定の話としていくつも続ける。

ここで6度目の性行為。前回から少し後退して、二人が布団をかぶりながら先ほどの「仮定の話」の続きをしている。

ここでS6前半のキモとなる、ハワードを陥れてサンドパイパーの和解金をすぐに手に入れ、それを元手に無料弁護をするというアイデアが初めて出る。最初は「言ってみただけよ、忘れて」というが、その後もこの妄想が実現したらどうなるか、という仮定の話は続き、ジミーから「余程の悪事」というこのエピソードタイトルが回収される。ジミーですら「人生を破壊する、やりすぎだ」というのに、キムは「1人の弁護士のただのキャリア上のつまづき」とのめりこむ。

そして「ふざけてるだけなんだろ?」と不安げに確認するジミーに両手を銃に見立ててバキュンバキュンと撃つ仕草をするキム。S6Ep09放映まで、自分がS4Ep10の次、2番目に好きだったシーン・エピソードだ。

 

 

まとめ

こうしてキムの、ジミーとの関係についてのイベントを纏めて見ると、S6Ep09で語られた「別々ならいいけど、一緒に居ると毒になる」という発言の説得力が格段に増すのではなかろうか。

 

ジミーとの性行為についても、逸脱との関連が非常に強い事が見て取れる。順番にどのタイミングで起きたのか纏めると、

  1. ケンに高額飲み代を奢らせた事
  2. エンジニア、デイルから小切手をだまし取る
  3. ヒューエルの弁護
  4. 「トゥクムカリの立ち退き案件」での利益相反を回避した直後
  5. メサ・ヴェルデへの謝罪の場での反論。これはトゥクムカリ案件のキム目線での成功後でもある。
  6. 「ハワードを嵌める妄想」の最中
  7. (本記事の範囲外)S6Ep07 サンドパイパー案件の和解が成立した瞬間
  8. (added 20220909, 本当は3と4の間) ベランダからビール瓶を投げた後

となる。本当に楽しかったんだな。

 

法の番人としてのキムの逸脱は、S2の酒場での寸借詐欺から始まる。それは住所書換の証拠隠滅の唆し、S3のジミーの弁護、S4でのヒューエルの弁護や建築図面の差し替え、そしてS5のトゥクムカリの立ち退き案件、S&Cを退職、ハワードを嵌める妄想とどんどんエスカレートしていく。

そしてS5Ep10の二丁指拳銃や、S6Ep02最後、腕組みをしてジミーを待つキムに繋がる。「ジミー・モーガン・マッギル」のBreaking Badストーリーだと思っていたBetter Call Saulだったが、「キム・ウェクスラー」のBreaking Badストーリーとしての色の方が濃いとまで、S5完結時やS6前半では思わされた。

そして「そのBreaking Badがジミーと居る事による"化学反応"である事を自覚したキム」を失った事によって、「ジミー・モーガン・マッギル」のBreaking Badが完成する。

 

なんでこんなストーリーが作れるんだろう。