toorisugari3のブログ

ベターコールソウルの事について、ネタバレ込みでつらつらと

Better Call Saul S6Ep09 感想 (含: ネタバレ)

【注意】本エントリには、Breaking Bad/Better Call Saulのネタバレが含まれる。Breaking Badと、Better Call SaulのS6Ep09まで未視聴の方の閲覧は推奨しない。

例によって、また馬鹿長くなってしまった。特に「纏まらないまとめ」以降は読む必要はないだろう。

以前、「Better Call Saul Season6前半における繰り返し演出・自己言及」というタイトルでエントリを書いたのだが、「繰り返し演出・自己言及」について「コールバック(演出)」という言葉を見かけたので、文字数的にも優しいこちらの言葉を使っていくことにする。

一部分書き掛けの所があって、もう一つ書き忘れていたところがあったので、(追加)(追加終わり)で括っておいた。もし21日中に見て追加部をみたければ「(追加)」で検索してみて。

 

Teaser

モンタージュシーンは「It's the perfect way to end a perfect day.」と歌う声だけ(では無いがほぼこれ)が響き、セリフはない。曲はHarry Nilsson「Perfect Day」のカバー。

 

スプリットモールのソウル・グッドマン事務所に看板が取り付けられるシーンから始まる、シーンのつなぎ方が本当に完璧だ。先のエピソードでマイクに指示されたように、ジミーとキムは昨夜起きた悲劇などなかったようにこれまでと変わらぬ日常を過ごし、マイクは部下たちとキムのアパートを「掃除」する様子が、10シーン描かれる。それぞれのシーンの終点と次のシーンの始点が10のモチーフによって接続され、最後にキムとジミーがアパートに帰ってくるところでモンタージュシーンと歌が終わる。

 

二人は「何も起きなかった」かのような部屋の様子を眺めるが、「なかった事にされた」事やその経緯が二人とって重大な意味を持つ事は表情から明らかだ。

 

このモンタージュシーンは脚本家のAnn Cherkisによって12~16ページにわたって書かれていたそうだ*1。この、本エピソードの監督であるMichael Morrisのインタビュー記事、どこからどこまでも面白いので是非読んでいただきたい。

 

コールバック演出

  • 画面分割こそないが、男声・女声のデュエットで、S4Ep07 Something Stupid、S5Ep09 Bad choice road(こちらはハミングだけだが)のTeaserで行われたモンタージュを思い出す。
  • ジミーが事務所で首の固定具を客につけさせるのはBrBaS3Ep04へのコールバック。常識的に考えて弁護士が用意しておくものではないので、むち打ち詐欺のための小道具なのだろうか。S2Ep10での入院直後のチャックもこの固定具を付けている。また、BrBaS1Ep06での、トゥコにやられた入院中のジェシーも。
  • 街の光を見下ろす高台で、処分すべきものを燃やすマイク。ヴェルナー・チーグラーと「おさらば」した場所を思わせる。
  • ホテルのベッドで、ジミーとキムが互いに背を向けてる時にジミーが語った「ある日ふと『忘れていた、記憶が薄まっていた』事に気づく」というエピソードは、S5Ep09でマイクがジミーに語った事である。そしてマイクはその話を義理の娘ステイシーから、愛する人を失った人達の自助グループで聞いた。
  • 上記エピソードのように、「ジミーが他者に言われた事を内面化して別の人に話す」事はこれまでも行われてきた。恐らく最初はS1でキムに言われた「高齢者法を専門にしたら?」という提案を、兄チャックに「高齢者法を専門にしようと思っている」と言ったところだ。S5Ep10では、サンドパイパー案件について「今和解すれば、お年寄りたちは生きている間にお金がもらえる」とキムが言った事についても、ジミーはS6Ep03でヒューエルに言っている。
  • ジミーがマイクから聞いた話を受け売りでキムに話すことは、S5Ep09でキムがS&Cを辞めた時にもやっている。「悪い選択の道」の下りで、これもコールバック。(added 20220724)
  • また、この話はキムに聞かせるためでありながら、自分にも言い聞かせている。人に語り掛けながら、実は自分にも語り掛けているという構図は、S4Ep10で万引き歴がある奨学金候補の少女にした演説もそうだ。

 

Act 1

ドン・エラディオ邸

ガスがネクタイをしていないのは何故なのだろう?

ガスが呼ばれたのは、ヘクターが「最後の足掻き」をするためだった。双子はヘクターから1字ずつ確認し、ガスを追及するための文章を完成させる。双子にはそれだけの知恵があったのかと、少しびっくりした。トゥコよりは頭が使えるのだろう。

 

ガスは様々な状況証拠が偽りの潔白を証明する事を確信していて、余計な言い訳をしない。事はガスの筋書き通り運び、Breaking Badでのカルテルとガスの関係が完成する。揺らめく照明のオレンジの炎に対応して、エラディオのシャツの模様が「青く」発光するようにすら見えるのが終始印象的だった。青は力の色か。

 

話が終わり、エラディオとガスがすれ違う時にガスの眼鏡に揺れる炎が反射し、復讐に燃えるガスが暗示される。エラディオもガスの復讐心は承知だが、少し「なら」許してやると釘を刺す。

 

ガス邸

帰宅し、雨戸を開け、光を入れるガス。ラロを始末し、カルテルを騙しきったのに笑顔は見せない。

地下の洗濯室に繋がる秘密の通路前で、本日の経緯報告するマイク。建設再開はいつになるのか尋ねるガスに一瞬眉をひそめるマイクが印象的だ。「金の事しか頭に無いのか?」とでも思っているのだろうか?

影武者も居ないのに、地下道を通って隣家にいくのか?とおもいきや、ドアをしめ、自宅にとどまるガス。その直前のマイクとのアイコンタクトと、電気を消すマイクの影が物語るものとは?

 

コールバック演出

  • 最後にプールの中から揺らめく水面越しにガスの姿が映る。これはS3Ep04 Teaser最後のコールバックだ。そこで映ったのはガスではなく、今回コケにされたヘクターだが。
  • また、この場所はBrBaS4Ep08のフラッシュバックで、ガスのパートナーだったマックスがヘクターに殺されたプールサイドであり、BrBaS4Ep10でドン・エラディオが殺されて浮かんだプールでもある。ガスとカルテル因縁の場所だ。
  • ヘクターがカズンズに運ばれて退席する時の「ベル乱打」。厳密には少し違うのだが、BrBaS2Ep02のエンディングシーンを皆一番強く思い出すのではないか。トゥコがハンクに殺された直後のことだ。もしくは、ヘクターとガスとの因縁に注目すれば、その最期の瞬間であるS4Ep13かもしれない。

 

 

Act 2

レストラン

ガスに蘊蓄語りまくるソムリエ、いくら何でも出しゃばりすぎじゃない?とは思ったが、それなりの縁・前歴がある模様。

完全にカウボーイの恰好をした野蛮な男が、一口だけで突き返した極上のワイン。それを味わって讃辞を送るガス。

ソムリエの「His loss is definitely your gain.」と言う言葉は、ガスとラロの事そのものだ。

 

ガスが「特別な時に開けたい」といった1978年のコート・ロティ。ソムリエを待たずして帰ったガスは、これを味わいにいったのだろう。サラマンカを根絶やしにした後(BrBaS4Ep13 Face Off)では飲めなかった事を考えると、このソムリエは良い事を思い出させたに違いない。

 

……と書いたが、上記段落は完全に自分の読み間違いで、ガスは寧ろ「浮かれている場合じゃない、まだ復讐の相手はたくさん残っている」という事に気づいたんだろう。他人の感想を読み、映像を見返して確かにそうだと確信した。最後の一口を飲んだ後の右眉の下がり方、グラスをスライドさせる強さ・速さ。表情もとても勝利の美酒を、という様子ではなかった。何故みのがしちゃうかな。

 

勘定のお札を十字に配置したのは何か意味があるのか、あちらでは一般的な慣習なのか?

 

 

Act 3

マイク宅

マイクの帰宅シーンから始まり、銃と一緒にナチョの父親マニュエルの偽造IDを隠す。リラックスしてビールを飲みながら野球を見はじめるが、S6Ep01でケイリーが遊んでいたMarble Runを見て偽造IDをまた引っ張りだす。

Marble Runで遊んでいた時にケイリーに言った言葉「高く作りすぎたからビー玉が飛び出てしまうんだ」を思い出したのだろう。悪さが過ぎて死に至ったナチョを、マイクが想起したのは想像に難くない。このケイリーの遊び道具が、タイトルの「Fun and Games」が指すものの一つだ。

 

Fandom Wikiによれば*2、「Fun and Games」が指すものとして候補は2つあり、片方は「つかの間の、取るに足らない、比較的価値のない活動」、もう一つは 「"It's all fun and games until someone loses an eye." という古いことわざ」だという。

「痛い目を見るまではなんでも楽しいものだ」という意味あいの後者は、まさにジミーとキムのFun and Gamesの果てに目どころか命を失ったハワードや、恐らくはそれほど辞める事の難しさを考えずにギャングの世界に足を踏み入れたナチョの事なのだと考える事ができる。

 

何も知らないナチョの父親を憐れんでか、マイクは彼に会いに行く。

 

A-Z Fine Upholstery (ナチョ父の工場)

ナチョの父親マニュエルの工場で、彼はミシンを回している。目を閉じず見開かずのマニュエルの半眼は仏像のようでもある。

マイクはナチョの父親と金網越しに向かいあい、ナチョがもう帰らない事、苦しまずに死んだ事を伝える。悪党の仲間にはなったが、善良な心を持ち、彼らと同じではなかったとも。

そしてサラマンカについても、正義の裁きが下るだろうと言うが、マニュエルは「それは正義ではなく、復讐だ」「ギャングに正義などない」「あんたらは皆同じだ」と返す。自らの立場を甘く見ていた、もしくは忘れていたマイクは、強烈な冷や水を掛けられ立ちすくむ。これは視聴者にも向けたメッセージかもしれない。

 

マイクとマニュエルの2人は共に息子を失った父親だ。

マイクは息子マットを失い、息子を殺した2人の警官を殺して復讐を果たした。そして同じく復讐を目的とするガスにその事を知られ、ガスの復讐に加担する事になった(S5Ep05)。

一方でマニュエルはギャングに正義などないと、きっぱりと復讐を否定する。

この2人を隔てた金網は、刑務所での面会のメタファーだ。塀の中に居るのは勿論……。また、マニュエルの指摘は、マイクの最期(BrBaS5Ep07)をも思い起こさせる。

 

コールバック演出

  • マイク宅物置の床下Stash
  • Marble Run

 

 

Act 4

HHMでの追悼式

駐車場エレベーター前の、ジミーが蹴ってへこませたゴミ箱は交換されている。

ジミーとキムはHHMで開かれたハワードの追悼式に顔を出す。満面の笑みを浮かべる在りし日のハワードの姿がいくつも飾られて、心が痛む。既視感のある写真だなぁ、と思ったらPatric Fabian個人のInstagramからの借用だったようで……

飲み物を入れながらハワードの写真を見つめるジミーは、最初は悲し気な表情。しかし、それは見せかけだけの演技だったのか、踵を返す際には「知った事か」とでもいいたげな口の歪ませ方をする。ハワードの死への責任と向き合う事を放棄しているように見える・思える。

 

ハワードの妻シェリルにお悔やみを伝えにいくと、シェリルからハワードの死について問い詰められる。ハワードは生前、ジミーの嫌がらせについての話をしていたからだ(S6Ep06 A1)。

ジミーは、嫌がらせについてはこれまでの筋書き通り誤魔化す。が、それでも「ドラッグを使っていたなんて信じられない」と、追及を止めようとしないシェリル。ジミーはことあるごとに立ち去ろうとするが、シェリルはそれを許さない。

そこでキムは1年半ほど前に、ハワードが机にむかって頭を下げ、何かを吸っていたのを目撃した事を告白する。勿論これは作り話だ。

 

そして、それでもまだ信じられないシェリルは、クリフに同意を求める。が、ゴルフクラブでの偽ドラッグや、ウェンディをNAMAST3ナンバーのジャガーから放り出すシーンを見ていた・見せつけられていたクリフは積極的にシェリルを支持できない。


そこで作り話とは逆に、シェリルに「寄り添うそぶり」を見せるキム。むろん、これは態度だけである種の誤認誘導、「ガスライティング」だ。ハワードの死で我に返ったキムの倫理観からすれば、本来行えないレベルの酷い所業である。それでもこれを徹底するのは、ジミーとキム二人の安全の為にしなければいけない事だからだ。

シェリルはいたたまれなくなり、その場を去ってしまう。

 

帰り道、HHMの地下駐車場で「これで本当に終わった」「回復を始めよう」というジミーに、何も言わず長いキスをするキム。S1Ep01ではじめての煙草をシェアする様子を見せた駐車場で。そしてキムは一人車に乗り込み走り去り、ジミーは立ち尽くしたままそれを見送る。

 

コールバック演出

  • エレベーターホールにあるゴミ箱は新しくなったが、これは以前(S1Ep01)ジミーがボコボコに蹴り飛ばしたものだ。ホール自体には、キムが一度失った顧客であるケトルマン夫妻を、ジミーの助力でまたキムのもとへ送り届けた(S1Ep07)場所でもある。
  • HHMエントランスホールに飾られる花とPicture。本エピソードではハワードの写真が、S4Ep02では、チャックのPicture(絵か写真か良く分からない)が。
  • シェリルにハワードへの嫌がらせを問い詰めらているジミーに助け舟を出すキムは、S5Ep09でラロに問い詰められたジミーに割って入った事を強く想起させる。
  • 二人が長いキスを交わしたHHM地下駐車場は、S1Ep01でジミーとキムが初めて煙草をシェアした場所。

 

 

Act 5

裁判所

キム自身による証拠排除申し立ての場で突然の辞任を告げるキム。当然判事も混乱し、問い詰める。なかなか答えないキムだが、最後には「弁護士を辞めた」と。唖然とする裁判官・検事。

キムが弁護士を辞めるのは、あり得べきシナリオの一つだと思っていたが、それは悪事の発露によるやむを得ないもので、本人の罪悪感からけじめをつけるものになるとは想像が及ばなかった。後任のペイジ(メサ・ヴェルデの法律顧問)との関係性の深さ・良好さもうかがえる。キムは結構傍目には理解しがたい行動を続けており、普通ここまではしてくれない。

 

キムのアパート

弁護士を辞めた事を知ったジミーがこれ以上ないほど動転して帰ってくる。
「何て事をしたんだ!取り消すんだ!そのために引っ越しもしよう」と言ったジミーは寝室に行くが、そこでキムが荷造りに並べた荷物を目にする。キムの別れの決意を見せつけられたジミーは呆然と立ち尽くす。

キムは、「君にとって害悪か?」(S5Ep10)というジミーの言葉を持ち出し、そしてそれを否定する。「お互いにとってお互い自身が害悪なのだ」と。

ここへきてはじめて交わされる「I love you.」「I love you, too.」の会話も切なすぎる。もうずっと明らかだったのに、別れる事を決めてからはじめて交わされるこの会話。

ここでのジミーの表情はとてもとても印象的だ。子供が大人を試す時のような、挑戦的な、これを言えばキムの決意も覆るのでは?という打算が滲み出た表情に自分には思える。

しかし、キムの「I love you too.」に続く言葉は「But so what?」。ここで初めて見せるキムの強い強い悲哀の表情。

 

ラロが生きていた事を黙っていた事も、キムはここで打ち明ける。黙っていた本当の理由は、ジミーを守るためではなく、それを言えばジミーが別れると言い出すことが分かっていたから。ジミーと離れたくなかったからだと。「Because I was having too much fun.」あまりにも楽しかったから。

 

おそらく、Teaserの何もなかったかのように元通りにされた部屋を見ていた時には、キムの別れの決意は固まっていたのだろう。HHM駐車場での無言のキスも納得がいく。

そして寝室でキムが荷造りする音を聞きながら呆然と立ち尽くすジミーの後ろ姿でシーンが終わる。

 

「Death Is Not the Only Tragic End」という、思わせぶりな表現があちこちの記事で語られていたが、これがそうなのか、と。

 

コールバック演出

  • キムの「楽しかったから」は、Breaking Bad最終回での、ウォルターからスカイラーへの電話での会話と似ている。「これまでした事全ては自分のためにやった。好きだったし、得意だった」というセリフだ。メス作りと(法律の裏側としての)詐欺という2つの悪事の違いは、そのままBreaking BadとBetter Call Saulの主題の差でもある。
  • カップルの女性が男性のもとを去っていく、というのはS6Ep01 Teaserで流れたBGMや、タイトルにもなった「Wine and Roses」、酒とバラの日々という映画のストーリーを思い出させる。この映画ではアルコール依存症を認められない女性が男性のもとを去るが、キムが去る理由は逆に、ジミーと居る事によって誘発される詐欺(Scum)への依存を認めたためだ。

 

 

ソウル・グッドマン邸

回転ベッドで回ってくる薄毛の頭。そして見知らぬ女性が隣に。

 

Breaking Bad時代だ。

 

S6Ep01Teaserでのフラッシュフォワードで見せられたド派手なソウル邸。紛れもないBreaking Bad時代のソウル・グッドマンが生きている。

あの、人を世の中を舐め切った態度を、フランチェスカ相手の電話や娼婦相手に存分に見せつけてくる。「キャデラック ドゥビル」に乗り、ソウル・グッドマンのラジオコマーシャルがモノラルな事に文句をつけながら事務所に到着。

 

屋上には勿論自由の女神の風船像。手に持つ本には「JULY IV MDCCLXXVI」(1776 7月4日)の文字が。本物もその手に持っている独立宣言書。

シャツは淡い黄色、ネクタイ・チーフはオレンジでレップタイ。机の中にはBreaking Badではおなじみの黄色のマッチブック。かつての愛車Suzuki Esteemのくすんだ黄色とは違い、はっきりした黄色。黄色が表すのは「楽観」「快楽」「臆病」「恐怖」「誤りの希望や不注意な快楽」「疑惑やパラノイアによる不幸」。

 

オフィスの待合室は、フランチェスカが苦労して作り上げた最初の居心地の良さなど欠片も無い。執務室前でフランチェスカから手渡される「WORLD'S GREATEST LAWYER」のマグカップ。かつてジミーが「WORLD'S GREATEST LAWYER」と認めたキムはもう弁護士ではないのだ。

 

ソウルは机の前で伸びをして気合をいれ、「Let justice be done, though the heavens fall.」。

 

コールバック演出

  • ソウル・グッドマン邸。S6Ep01 Teaserのフラッシュフォワードで見せつけられた、回転ベッドや浴室、クローゼットなどの過剰に派手な屋敷の様子が、LIVEで見せつけられている。
  • ジミーの、キム以外との性行為はS1Ep10で、マルコと遊びまわっていた時に「ケヴィン・コスナー」だと偽って寝た女性以来だ。キム以外の女性との交際が描かれるのは、この2つの性行為と、S1Ep02での、バーでのデートだけである。
  • 着替えながら電話するシーンで出てくる「Another public masturbator」は、BrBaS2Ep08でのバッジャーとのシーンを思い出させる。ソウルはバッジャーを「Public masturbation」で捕まったと勘違いしているのだ。
  • ソウル・グッドマン事務所。屋根上のバルーンの自由の女神、待合室、フランチェスカも完全にBreaking Bad時代だ。
  • 「WORLD'S GREATEST LAWYER」のマグカップ。BrBaS3Ep06ではじめて画面にチラ見えする。以降、ソウルのデスクにはつきものになったマグカップ。Better Call Saulでは、キムがジミーにプレゼントした「WORLD'S 2nd GREATEST LAWYER」「WORLD'S 2nd GREATEST LAWYER Again」のトラベルマグを思い出す。「2nd」と「Again」はキムが追加した文字だ。
  • ソウル・グッドマンの黄色いマッチブックは、ジミーマッギルの青いマッチブックとの対比。青はBetter Call Saulでは法律の色とされる。
  • 「Yankee Doodle Dandy」と自称するジミー。これは1942年のミュージカル映画で、戦意高揚映画の一つだ。このタイトルの元になった「Yankee Doodle」は独立戦争時代の愛国歌で、日本ではアルプス一万尺のメロディとしておなじみだ。同時代の愛国歌として、「The Battle Hymn of the Republic」という曲があるが、この曲のワールドミュージック風アレンジジャズが、ジミーがケトルマン夫妻からもらった賄賂の処理をするシーン(S1Ep04)で使われている。
  • 「Let justice be done, though the heavens fall.」これはS3Ep05でチャックがハワードに、ジミーを罰しようとして弁護士資格の剥奪を狙った証言の直前に言ったセリフと完全に同じものだ。勿論ジミーはこのセリフは聞いていない。チャックはジミーの前でこのセリフを使ったことがあったのか、偶然の一致なのか、それとも必然の一致か。しかし、英語ではIdenticallyに、一言一句同じセリフなのに、吹替や字幕では違いが出ている事が残念でならない。アルバカーキサーガに無駄なセリフなんて無いのだが、その中でも大見得を切って放った決め台詞くらいは……とは思うのだが、文脈上いたしかたないのか。以下に該当箇所の吹替・字幕のセリフを引用しておく。

吹替

チャック「天国が落ちても 正義を果たさねば」

ジミー「天が落ちようとも正義を貫こう」

字幕

チャック「何があろうと 正義を果たす」

ジミー「正義を行おう 天が落ちようとも」

 

 

エピソード演出

本エピソードでは、最初のセリフと最後のセリフは、共にジミーが発話するが、両方とも他人のセリフだ。冒頭のマイクの引用については場に合わせたアレンジがしてあるが。

 

また、本エピソードは「ソウル・グッドマン事務所」の看板が掛けられる所から始まり、すべてが「完成」した「ソウル・グッドマン事務所」で終わる。

 

 

全然まとまらないまとめ

ジミーとキムのすれ違い

キムはジミーとのおふざけが本当に楽しくて我を忘れていた。根本的には「Fight good fight, change the world」、弱きを助け正義を果たすアラバマ物語の主人公に憧れる人なのだ。

キムには弁護士を辞める以外の責任の取り方がなかった。そして、ジミーと別れない限り、「また」周りの人を傷つけてしまう事を確信していた。

 

 

ジミーはキムと居ると、汚い手を使ってでもキムを助けようとしてしまう。キムは本当はそれを許したくないのに、結局は頼ってしまう。

S5Ep01の最期、おとり警官にミニ冷蔵庫を売りつけようとして逮捕されたボビー。司法取引を拒み、長期囚役が目に見えた裁判を避けるために、キムは正攻法を選びたいのに、ジミーが検察官のふりをして、司法取引を決断させようとするが、キムは拒む。拒んだのだが、依頼人ボビーとのやり取りの流れの中で、結果上の依頼人の利益を考えて結局はジミーの汚い手に乗ってしまう。

メサ・ヴェルデコールセンター予定地で立ち退き拒否していたアッカーの件もそうだ。ケヴィンをハメようとするが思い直し、ブレーキを掛けるのだが、結局は暴走したジミーを許して、配偶者特権を言い訳に結婚までしてしまう。

 

 

チャックもハワードも、キムとジミーが一緒にいる事によって死に至った。ジミーとキムの、「一緒にいると毒になって周りを傷つけてしまう」因果なChemistryによるものだ。そしてチャックの元妻レベッカや、ハワードの妻シェリルまで不幸にしてしまう。他にもエルネストや縮小が決まったHHMの職員、メサ・ヴェルデやガトリン石油、D&Mにかかった迷惑も、「ジミーとキム」が発端だ。

 

思い起こせば、チャックの死の発端は、独立したキムにメサ・ヴェルデ案件を取り戻すため、ジミーが書類の住所を書き換えた事だ。

これはキムが居なければ起こり得なかったことであり、しかもキムはその事実を知りながら、ジミーに証拠隠滅を唆してすらいる。S2Ep09 39分頃だ。ジミーはこれを聞いてすぐコピー屋に走り、証拠隠滅を謀る。直後、チャックが店を訪れ、(S6Ep07のハワードのように)頭を打って入院する。

 

後にこの工作が原因となり、ジミーは弁護士資格を停止されてしまう。この事でチャックを恨み、弁護士保険会社にチャックの病気・失態を漏らし、ハワードとチャックの仲を裂く。ハワードは身銭まで切ってチャックの持ち分を払い、HMMからチャックを追い出してしまう。これがチャックを絶望させ、自殺に追い込むのだ。

 

まさに「ジミーとキムの化学反応」が毒をうみだし、チャックとハワードを死に追いやった。直接的な死因となったわけではないが、それでもだ。

ジミーはそれを見なかった事にしてキムとの生活を、幸せを望む。ジミーとキムは愛し合っている。お互いにそれは承知だ。しかし、キムは「But so what?」だから何?と。二人が一緒に居る事によって生み出される不幸にキムは耐えられない。

 

そしてそれを受け入れられないジミー。キムに勧められても精神科医にもかからず、チャックの死に対しても、ハワードのそれともまともに向き合おうとしなかった、向き合えなかったジミーは変わらない。

 

ここのすれ違いがジミーとキムの離別の原因だ。

 

キムがBrBaで姿を見せない理由について、「お互いへの愛情が無くなったから/無かった」「死んだ」「刑務所で服役している」「人消し屋で消えて、新しい人になりすましている」「カルテルのために働いている」「全てをジミーの責任にして、ジミーを裏切る」他、とんでもないものまでいくつもの仮説があった。

後出しで言うな、とはいわれそうだが、「死んだ」は個人的には一番遠いルートだと思っていた。「人消し屋で消える」というのも相当遠いのでは?とも。理不尽な死はキムには似つかわしくないし、ハワードで使ってしまってもいる。アルバカーキサーガが特に道徳的な業と報いを厳密に演出しているかと言えばそうでもないが、ジェシー・ピンクマンは生き残り、アラスカで第二の人生を送っている。ジェシーは5人の死に直接関与したにもかかわらずだ。エル・カミーノでは、いくらかの金さえ渡してくれれば死なずに済んだはずの悪党2人を殺し、その前には自分を地獄に追い込み、「飼って」いたトッドを。その前にはヘクター・サラマンカの甥、ホアキンを銃撃戦で殺している。最初の殺人はゲイル・ベティカーだ。ここまでの5人はみな、マイクが言う所の「in the game」

しかし、「一緒に居る事のシナジーで、他人を不幸に追いやってしまう」事が理由で別れることになるという予想は見た記憶が無い。こんなすれ違いが離別の原因になるなんて、自分には想像不可能だった。想像不可能だけど、提示されてみるとこれ以上ない、これしかないシナリオに思える。

 

ジミーとチャック

その一方で、変わらないジミーを作り上げたのはチャックでもあるのだ。チャックの2度の大きな裏切りと、その後の1度の大きな攻撃。

前者はHHMへの弁護士としてのジミーの参加を許さなかった事で、1度目は弁護士資格取得直後(S1Ep08 Teaser)、2度目はサンドパイパー案件をモノにした時(S1Ep09)。

後者はサンドパイパー案件でのジミーの逸脱を監視した事で、結局それが先に示したようにチャックの死にまで至ってしまう。

 

チャックはBetter Call Saul開始時点では、電磁波過敏症を患っていると思い込み、自宅に引きこもってジミーの助けによって暮らしている。チャックの孤独の要塞、外壁はベージュ色で窓枠は緑色だが、これはアルバカーキサーガのカラーコード*3による必然だ。ベージュが表すのは「イノセンスとは言えない」「少しだけ汚れた」、緑が表すのは「強欲」「嫉妬」だ。

 

チャックはいくつかのタイミングでこの緑の服を身につけもする。

S3Ep02最後とEp03 A1 ジミーを罠にはめ、ハワードと探偵を目撃者にし、警官を呼ぶまでのシーンがその1つだ。Ep02では屋内で暗いからあまり目立たないが、Ep02 A1では屋外に出てきて日光の下、セーターの緑を強く意識させる。

S3Ep09 HHMを訴え、払えない金額の持ち分を払うか、自分を引退させた事を撤回させるかの二択をハワードに迫る時には緑のエプロンを身につけて料理している。

 

チャックが弟への嫉妬をここまでこじらせた原因はなんなのか。

母の愛情を独り占めし(S2Ep10 Teaser) 、(元)妻からの好感も自分には得られないユーモア感覚により獲得する。一方で、チャックは寸借詐欺にふける弟とは違い、弁護士として社会的名声や地位を築いた。しかし、その高みから弟の更生を手助けしていたつもりが、その聖域にまで弟が登り追いつき侵食してきた。この事によるある種自己防衛的な反射運動でもあるのだろう。

 

ジミーの方からすれば、チャックは年がそれほど近くない、尊敬し愛する兄だった。少なくともS1Ep09で、兄の裏切りが発覚するまでは。

マルコと寸借詐欺で面白おかしく暮らしていたジミーは、「シカゴ・サンルーフ」により、意図せぬ性犯罪に問われ、更生を条件にチャックの助けを得る。

S1でのジミーは本当にチャックに献身的だった。S1Ep09で、ジミーが1年以上行ってきた毎日のチャックの世話リストをハワードに渡したシーンでも、ハワードが驚く程だ。

 

そして、2度の裏切りが発覚した後でも、「兄が俺をクズだと思っている。それは俺にはどうしようもない」(S1Ep10 A1)と、チャックを許す姿勢を見せている。その後チャックがジミーの粗探しをしなければ、弁護士資格の剥奪を目論まなければどうなっていたのだろうか?キムはHHMでメサ・ヴェルデを担当し、ジミーがD&Mで真っ当に働き、穏やかに暮らしていける道があったのか。それでもキムとの個人的な関係が続けば、結局は破滅の道を歩くことになったのか。無かったのが2度目の裏切りなら?1度目の裏切りなら?考え始めると止まらない。ずっと妄想している。

 

 

Better Call Saulでのジミーの「悪事」はS1Ep01のひき逃げ偽装計画から始まっている。これは経済的な困窮から、犯罪者であるケトルマン夫妻から金を巻き上げようとしたのが発端だ。ジミーがHHMで弁護士として働けていたなら恐らく経済的な困窮は無かったのではないか?そうすればトゥコとの邂逅も、ナチョとの関係も無かったはずだ。それでもキムとの関係が続いていれば破局に至ったのだろうか?

 

ケトルマン夫妻からは結局、実質的な口止め料として金を受け取ってしまったが、最終的には全て返してしまった。S1での悪事は、あとはハワードへの嫌がらせ看板の件と、あとはEp10でのマルコとの寸借詐欺だけだ。

 

チャックへの態度も、S3Ep02でチャックの罠にハマるまでは、兄弟としての忠誠心・思いやりは失っていない。S2Ep09ではコピー屋で電磁波過敏症の発作を起こして頭を強打したチャックを覗き見していて、自分に不利になる事もかえりみず駆け付けている。S3Ep10ではもう一度チャックに歩み寄ろうとまでしたが、拒絶され、その数日後チャックの自死に至る。

S3Ep01でチャックの家の「電磁波防護」のシート類をはがす時のテープの巻き取り方も、ジミーは無意識に取り入れ、S3Ep02で共同事務所の壁のマスキングテープをはがす時に同じやり方で巻き取っている。チャックとのこれからの裁判での戦いについて、キムが話している時だ。この後、すこしテープの巻き取りにつまづいて一瞬止まり、怒りがこみあげてきて一気にはがしてしまう。それまで綺麗にWMのラインが現れていたのに、一気にはがしたところでは線が歪んでしまっている。このシーン本当に印象的で大好きなシーンだ。ジミーのチャックへの愛情と恨みが入り混じり相反したシーンだから。

また、S1Ep04やS1Ep10でマルコとやる酔いつぶれた馬鹿の偽時計で金を巻き上げる詐欺。酔いつぶれたマルコへ送るサインになるのが「狼の遠吠え」だ。これは酔いつぶれたマルコが歌うDeep Purpleの「Smoke on the Water」にちなみ、おなじDeep Purpleの「Hush」からきているとされている。勿論これはそうなんだろう。しかし、これにはもう一つ、チャックへつながるリンクがある。直前に言及したS3Ep01でチャックの家の「電磁波防護」のシート類をはがす時にでた、「The Adventure of Mabel」だ。このシーズンの最終話S3Ep10のTeaser フラッシュバックで、子どもの頃に夜、テントで、「ランタン」の灯りの下で、この「The Adventure of Mabel」をチャックが読み聞かせるシーンで、「狼の遠吠え」をしているのだ。

更に、まとめの前に書いたが、本エピソード(S6Ep09)を締めくくる「Let justice be done, though the heavens fall.」という言葉は、S3Ep05でチャックが一言一句同じ言葉をジミーを罰しようとする場面で使っている。チャックの口癖の1つだったのかもしれないし、偶然の一致なのかもしれない。どちらにせよ、制作陣からのジミーとチャックとの繋がりを強調する演出であることは明らかだが。

 

 

ジミー・モーガン・マッギルをソウル・グッドマンに変貌させた最大の要因はキムなのだろうが、2番目に大きな要因がチャックなのは疑う余地が無いと思う。

 

 

ソウル・グッドマン

初めて「Saul Goodman」という言葉がでてくるのはS1Ep04 Teaserフラッシュバック、シセロでマルコと悪さをしているSlippin' Jimmy時代のエピソードだ。単なる偽名に過ぎなかったこの名前は、「Saul Goodman Productions」や使い捨て携帯売りとしての名前を経て、S4Ep10でついに弁護士としての屋号にまでなる。

 

しかし、S5でラロの弁護や、その保釈金の運び屋をする事によって、ジミーからソウル・グッドマンへの変身は加速しはじはしたが、まだまだBreaking Bad時代のソウル・グッドマンとはまだ大きな隔たりがあった。

S6に入り、ラロとの関係が事実上バレた事で検事や裁判所職員達からの軽蔑を得、また同じことがきっかけで「Salamanca's guy」としての名声とそれに引きつけられた新たな顧客たちを得た。スプリットモールの事務所もついに手に入れ、フランチェスカへの傲慢な態度も見られるようになった。キムとのScumを進める中で、ジミーの良心が描写されることは全く無くなり、キムとの別れで遂にソウル・グッドマンに至る最後の崖を飛び降りたのだ。

 

 

S6Ep01 Teaserでは、キムの持ち物だったものがソウルの屋敷にあった事が描写されている。豪華な棚から零れ落ちたサフィロ・アネホのボトルストッパーと、キムのアパートのソファの後ろにかかっていた風景画だ。

どうしてこの2つがソウルの屋敷にあったのか。それが本エピソードS6Ep09で明らかになったといえよう。「キムが手放した」のだ。

 

サフィロ・アネホのボトルストッパーは、S2Ep01で手に入れてから、ずっとジミーとの関係の思い出の品としてキムが大切にしてきたものだ。S5Ep09でS&Cを辞めた時も、オフィスの私物は送るように言っておいたが、これだけは自分の手で持って帰った。この思い出の品を、キムは持っている事ができなくなった。

自分がジミーとまき散らした毒のせいで、ハワードの死を招き、関係者の不幸をへと誘った象徴になってしまったからだ。ジミーとの関係を後悔する気持ちがあるかは分からないが、キムはもう思い出したくないという事なのだろう。

 

一方で、ソファの後ろにあった風景画。これはS6では、ハワードをハメるための作戦ボードとなり、裏にたくさんの付箋が張り付けられていた。こちらもキムにとっては忌まわしい思い出で、手放したくなるのは当然だ。しかも、S6Ep07ではハワードの頭から飛び散った血が掛かっている。実際にその血を拭きとったのはジミーやキムではなく、マイクの部下だから、その部分の心理的抵抗はすくないとはしても、これがソウル・グッドマン邸にあったのは何故か。

 

 

ジミーはキムとの思い出を捨てられないからだ。

 

 

Breaking Bad S3Ep02で、ソウルがウォルターに会ったあと、車で悩むシーンがある。
ウォルターはS2Ep13でスカイラーに、手術代を自分で工面したのにシュバルツ夫妻に出してもらったと嘘を付いた事、メスを作る間の言い訳として母親に会いにいったという嘘がバレ、別居・離婚を迫られる。

ウォルターが一人で住んでいる家にソウルが様子をみにきて、スカイラーは警察に垂れ込んだりはしないと励ますのだが、ウォルターは家族を失う事が絶えられないと弱音を吐く。その後もブラブラと軽口をたたき励ますのだが、アパートを出て自分のキャデラックの運転席に座り、深いため息を吐くのだ。これがキムを想っての嘆息であることは今となっては自明である。

Breaking BadではS2Ep08で初登場して、ソウルの登場は5エピソード目だが、こんなシーンを「置いて」おく制作陣に戦慄する。Breaking Bad内では回収されない場面なのだ。また、Better Call Saulのオンエア開始は2015年「2月8日」である。

Better Call Saulは、ただでさえ名作中の名作であるBreaking Badを更なる高みへと押し上げる圧力であり、それ自身もまた何に劣る事の無い傑作中の傑作でもある。

 

 

S6Ep01エル・カミーノダイナーでキムが語った「ソウル・グッドマン像」。Flair(洒落た)でShowy(派手)な国産車。Good Location(良い立地)にあるSomething eye-catchingな(目を引く)事務所。A cathedral of justice(正義の大聖堂)。

これらはソウルの愛車キャデラック ドゥビルや、事務所の上のバルーンの自由の女神、執務室の大仰な柱や壁に描かれた合衆国憲法前文として実現されている。

 

これらが示すのは、ソウル・グッドマンはキムとの思い出を糧として生きているという事だ。直接は語られなかったが、悪趣味なほどに派手なソウル・グッドマン邸も、ジミーが思う「キムの理想のソウル・グッドマン像」を実現したのではないか?

 

本エピソード(S6Ep09)最後の5分で描かれたBreaking Bad時代のソウル・グッドマンは、障碍者用スペースに駐車し、偽の障碍者マークを掲げる。それでいて自由の女神を屋上にかざり、自らを「アメリカ精神を体現する男だ」(I'm a Yankee Doodle Dandy.)とうそぶき、誰にも憚らず「WORLD'S GREATEST LAWYER」のマグカップでコーヒーを飲む。

 

S6Ep01 Teaserでは、ソウルの薬の一つにバイアグラがあった。ジミーはキムとの関係が始まって(S2Ep01)からは、他の女性とは一度もデートすらしていないし、色目を使う程度の事すらしていない。娼婦との性行為はキムを忘れるための代償行為なのか、それともこれまでもがキムの理想のソウル像なのか……?キムはソウルとの未来も思い描いていたはずだから、流石に後者では無さそうではあるか。

 

結局のところ、全てはゼロか1かではないのだな。自分は単純なので、「全てはキムの理想のソウル・グッドマン像を演じているだけなのだ」という説を唱えてきたが、S6Ep06ソウルの事務所の裏口に、「あのトイレはそのままにしておいて」と言われたトイレが捨てられていた時に薄々感付いていたことではあるが。

 

(追加)

このドラマが始まった時、ジミーは視聴者の共感を非常に強く呼び起こす存在だった。弁護士でこそあるが、ネイルサロンのボイラー室を事務所兼寝床とし、無料弁護で勝ち目のない犯罪者達の弁護をする。仕事以外にも、病気で家から出られない兄の面倒をみている。仕事の営業にも苦労し、詐欺師一家を探しに山にまで入る。ヒーローになる小細工で少し有名になれたと思っても、自分の国を作り自分の発行した通貨で支払いをしようとするイカレ野郎や、子どもに卑猥な喋る便器を売り込もうとするクライアントたちに苦労し、やっと見つけた高齢者相手の商売。そして偶然も味方して巨額報酬が確実な集団訴訟案件を見つけるも、兄の裏切りにあい外される。

こんなキャラクターに共感するなって言う方が無理というものだ。Breaking Badでのソウル・グッドマンも楽しい、面白いキャラクターではあるが、恐らく共感できるのはジミーだという人の方が相当多いだろう。そんな愛すべきキャラクターが、兄に認められる事を諦め、兄を殺す原因を作り、最愛の人を失ってソウル・グッドマンになってしまった。

少しズルはするけども、基本的には「良い人」でシンパシーを抱きやすいジミーから、世の中を舐め切った態度で、口八丁で立ち回る金回りのよい悪党が雇う弁護士ソウルへの変身を喜ぶ人がいるだろうか。ジミー役のボブ・オデンカークですら、ジミーは好きだけどソウルは好きじゃないとインタビューで答えてるのを見た記憶がある。

こんな苦痛を視聴者に与えちゃうの?なんで?と問わずにはいられない。

(追加終わり)

 

ソウル・グッドマンを最後に産み落としたのはキム・ウェクスラーだ。そこまで導いたのがチャック・マッギル、チャックへと導いたのがマルコという流れになるのだろうか。

「ソウル・グッドマン」は、キムが居なければ現れなかったし、逆にキムが居たままでも現れなかったのだろう。キムというSoulmate、Better Halfを失った空虚さが、バッジャーやジェシー、マイクらを殺す提案をした事まである、人の死すら弄んでしまう「ソウル・グッドマン」を生んだのだ。

 

 

残りの4話で描かれる事

これから回収されるべきネタ*4で、残っている重要なものは以下の4つ。

  1. タクシードライバーのジェフ
  2. S4Ep05Teaserで語られた11月12日の午後3時にフランチェスカに掛かってくる電話
  3. S6のシーズンアートの赤いジャケットを羽織るジー
  4. ジェシーとウォルターの再登場

2と3は繋がってる可能性が高く、1と4は独立してる可能性が高いように思える。

基本的には最終的なゴールに繋がるのは3で、付随して2も、ということになるのだろう。4についてはまだ想像がつかない。

 

これからのドラマのタイムラインがどうなるのかもまだ定かではない。本エピソード最後の5分は明らかにBreaking Bad時代だが、これがただのフラッシュフォワードでまた戻るのか、戻らずにまだソウル・グッドマンが人消し屋を使わない時代の話が続くのか、人消し屋以降つまりジーン・タカヴィクになってからの時代が描かれるのか。

 

ただ、これまでこのドラマにおいて、各エピソードのTeaser(Better Call Saulのタイトル画面よりも前の部分)以外での幅の大きなフラッシュバック/フォワードが使われたのはマイクの過去が描かれたS1Ep05 Five-Oだけで*5、それもフラッシュバックのみだった。これを考慮すれば、最後の5分がただのフラッシュフォワードでまた戻るという蓋然性は極めて低いのではなかろうか。

 

(追加)

一つだけ確かな事があるのを忘れていた。フランチェスカに頼んだ電話のネタは、あきらかにBreaking Badタイムラインで仕込まれなければならない。わざわざジーン時代に行ってフラッシュバックするのも不自然なので、最低限このネタの仕込みだけは本エピソードから近い時制で続けてやってしまうのではなかろうか。

(追加終わり)

 

 

11月12日午後3時の電話については、個人的にはS4Ep05放映直後から、これはもうキムからの電話しか無いだろう、と思っているのだがどうだろうか。同様に、ジーン・タカヴィクが赤いジャケットを羽織るのも、キムのため以外の選択肢が思い浮かばない。こういう予想を軽々と上回って別の方向性を出してくるのが、アルバカーキ・サーガの制作陣なので、この予想が外れても不思議は全く無い。

 

 

ここまで、何とか少しでも形になるように整形しながら吐き出した文章を纏めてきた(否、全くもって纏まっていない)が、いくら吐き出してもまだ足りない、まだ吐ける。書き忘れている事もきっといくつもあるだろう。しかし、ここで立ち止まりすぎないために、あえてここで区切りを付けよう。

 

 

これほどまでに完璧に、「ソウル・グッドマンの誕生」、そして「ジミー・モーガン・マッギルのブレイキング・バッド」を描いてくれた制作陣には本当に感謝しかない。

このドラマを(Season4からではあるが)リアルタイム視聴出来た事にも感謝しかない。

特にSeason5以降の、週1エピソードずつ進むリアルタイム視聴は至福の限りだった。一気見も嫌いでは無いのだが、ここまで考える事が多い作品だと、1エピソードにつき1週間考える時間が貰えるのが本当に嬉しかった。

「最高級の酒」をダイエットコークで割ったり、一気飲みしたりしないのと同じように、大切に味わえた事に感謝したい。

残りのトピックスを回収するのに4話というのは多いようで実は多くは無いのかもしれない。ここまでの完成度を見せつけてくれた制作陣がクロージングに出してくる4話にはこれまで最大の期待をしている。